ほんとうの定年後/坂本貴志

 

 

 厚労省社会保障の制度設計に携わられた後、研究者に転身された方が語られるリタイア後の在り方についての本です。

 

 この本は冒頭から紙幅の2/3弱を使って、定年退職後の方々の様々な側面の統計的なプロファイルを紹介した上で、著者が勧める理想的な定年後の在り方である「小さな仕事」への取組みについて、実際に充実した生活を送られている方への取材を通して紹介されています。

 

 「人生100年時代」と言われるように寿命が延びていく一方、年金への不信や退職金支給額の低下という状況を受けて70歳時点での就労率が半数に及ぶということですが、その中でも、長らく会社の中で右肩上がりのキャリアの末、定年後現役時代とさほど変わらない仕事をしながらも年収は半減して、著しくモチベーションを落とす人もいるようです。

 

 ただ、やはり60歳代を迎えるとどうしても気力や体力の衰えは避けがたいところで、現役時同様の活躍を志向しても、過度な負荷は心身の健康を損なうことに直結しがちで、自身のコンディション維持の方を重視すべきなところです。

 

 かつ、60歳代以降は子どもの独立なども相まって家計支出も相当程度の減少が見込まれるということで、キャリアに関する虚栄心さえ切り替えることができれば、一定のスローダウンをした方が、長い目で見て充実した定年後の人生が送れるんじゃないかということを示唆されています。

 

 そんな中で著者の阪本さんが勧めるのが「小さな仕事」ということなのですが、「小さな」といっても、取るに足らないという意味ではなく、現役時代と比べると規模は「小さく」なるモノの、キャリア志向から地域への貢献や周囲の人々とのつながりといった側面に「やりがい」をシフトできれば、細く長く充実した人生を送れるということで、そういう人生を送られている方々の事例を紹介されています。

 

 また日本社会としても少子化労働人口が激減する中、無制限に移民を受け入れるリスクを考えると、高齢者がムリなくやりがいを持ちつつ働き続ける環境を整備することで、社会全体の満足度を向上できるのではないかということで、雇用環境の改善を図ることを提唱されていて、特に中小企業において適正な報酬を支払うことができるような環境の整備が重要だと指摘されています。

 

 単なるリタイア凡化と思いきや、日本社会全体の満足度向上にまで言及されている深遠な内容で、定年がそう遠くないワタクシとしても、こういう環境が早期に実現すればいいなぁ…と思わされるモノでした。