車いすテニスの革命/本條強

 

 

 2023年1月に引退され、その後パラスポーツ普及への貢献を評価されて国民栄誉賞を受賞した車いすテニスの国枝慎吾選手の事蹟を辿った本です。

 

 ただ、この本引退や国民栄誉賞受賞を機に出版されたというワケではないようで、ゴールデンスラム達成を契機とされたようで、引退や国民栄誉賞受賞のところまでがカバーされていないのが、もうちょっと出版を待てばよかったのに…と思わないでもないですが、十分すぎるほどに偉大なキャリアを辿ることができます。

 

 一般のツアーの選手層の厚みが異なるとは言うモノの、ツアーでは28度のグランドスラムシングルタイトル、22度のグランドスラムダブルスタイトル、オリンピックでもシングルスで4度の金メダルなど、圧倒的な史上最強車いすテニスプレーヤーであるワケですが、抜きんでた運動神経は備わっていたモノの、身長173cmで恵まれた体格とは言えないかったにもかかわらず、自身よりはるかに屈強な選手たちをねじ伏せてきた秘訣としては絶え間ないプレーレベルの向上にあったようです。

 

 国枝選手がデビューした当初は2バウンドでの打ち合いが一般的だったようですが、長所である俊敏なチェアワークを活かして、ワンバウンドを基調としたスピーディーな展開を持ち込み、相手に対して息もつかせぬプレースタイルで、その後ライジングショットの導入などによりよりスピードアップを図り、107連勝という圧倒的な戦績を納めることになります。

 

 ただ、やはり体格で劣るにも関わらずパワフルなショットを志向したこともあり、キャリアの後半はケガとの戦いになってしまうのですが、それでも躊躇なく肘にメスを入れるなど、何度も復活を遂げ、ようやく東京パラリンピックでのシングル金メダルという大団円を迎えることになったワケです。

 

 国枝選手がスゴいのは、まあ東京でのパラリンピックというのは大きかったんでしょうけど、あれだけ勝ち続けながらモチベーションを保ちづづけたことで、日本人でも稀な圧倒的な強者としての存在にはアスリートのみならず、学ぶところが多いのではないかと思います。