ほんとうの親鸞/島田裕巳

 

 

 空海日蓮と並んで日本仏教史における最大巨人の一人に列せられることもある親鸞なのですが、他の二人と比べても、今なおかなりわからないことが多い親鸞について語られた本です。

 

 タイトルだけ見ると、「ほんとうの親鸞」を明らかにするとも取れますが、何ぶん残された史料がかなり少ないということもあって、ひと頃は架空説もあったということで、かなりまだ謎に満ちた存在なんだそうで、その「わかりにくさ」の所以を語られています。

 

 架空説については妻とされる恵信尼との書簡が発見されてからは、さすがに影を潜めたということですが、現在では親鸞親鸞たらしめるとも言える『歎異抄』における「悪人正機説」も一時期は、のちに浄土真宗を再興したと言われる蓮如によって封印されていたそうで、さらにのちに再び「発見」されたことで、さらに浄土真宗が注目されるようになったという経緯もあるようです。

 

 さらには師匠筋だといわれる法然との関係や、東国へ赴いた経緯、流刑の有無などとともに、親鸞の最大の特色の一つとも言える妻帯した経緯についても各種史料において朧げに紹介されているにも関わらず、親鸞自身に近い人々による記録がない様で、教義に関する史料についても『歎異抄』と『教行信証』を除けば、ほとんど残されていないようで、またいずれについても親鸞自身がどれくらい関わっているのかよくわからないということです。

 

 ただ、それでもその後絶大な信仰を集めるようになったことにてついて、通常仏教では元々自力での解脱を標榜する宗教だったということもあってか、鎌倉仏教の発展で次第に他力本願の色彩を織り込みつつはあったようですが、親鸞のより進んだ「完全他力本願」とも言える教義があったからこそで、宗教学者によっては浄土真宗キリスト教徒比較する向きもあるということで、その独自性が謎に包まれているのは、専門家にとってはなかなか悔しいところもあるでしょうし、日本でも最大級の信者を誇る宗派の由縁について、シロウトのワタクシも興味をソソられるところで、今後の研究に注目したいところです。