技術大国幻想の終わり/畑村洋太郎

 

 

 「失敗学」の開祖として知られ、このブログでも『失敗学実践講義』などの著書を紹介した畑村先生ですが、元々「失敗学」というのは畑村先生の専門であるエンジニアリングの分野から派生したモノで、この本は畑村先生の元々の専門である日本のモノづくりの衰退について語られたモノです。

 

 敗戦以降、朝鮮戦争による特需という天佑を契機に製造業が目覚ましい復活を遂げ、未曽有の高度成長につながったワケですが、そうやって50年かけて育て上げてきた隆盛を、バブル崩壊以降20年余りで台無しにしてしまい、最早かつての貿易立国モデルはすでに終焉を迎えたと指摘されています。

 

 高度経済成長期は目的があって、そのための技術を練り上げていくことでよかったのですが、その際の成功体験が過剰な品質の追求だったり、顧客のニーズや顧客が享受する価値についての配慮があまりになさ過ぎたが故に、自爆してしまったという側面があるようです。

 

 そんな中で今後日本の製造業が、すでに遠く置いて行かれている中国、韓国、台湾に伍して復活を遂げるためには、何よりも提供価値にフォーカスして何を作るのかということを強く意識していかないといけないということで、いち早く、今や価値のなくなった「成功体験」を捨て去り、謙虚に市場の声を反映した製品を作り必要があるということです。

 

 ただ、なかなか従来型の製造業で中国、韓国、台湾との差を詰めることは難しいようで、組み立て型の製造では最早コモディティ化は避けられず、価格競争に勝てないということで、なかなか技術的な背景の見えにくい材料系の製品の生産など、日本が積み上げてきたノウハウが流出しにくく、未だ優位を保っている領域にフォーカスするなど、国家を上げての再興戦略が不可欠のようですが、傾斜生産方式など戦後の再生に手腕を発揮したかつての通産省のように、現代の経産省や企業トップが再生へのイニシアティブを発揮できるかと言えば、甚だ心もとない気がするのも確かだったりします…