失敗学実践講義 文庫増補版/畑村洋太郎

 

 

 明けましておめでとうございます。

 今年もこのブログをよろしくお願いします。

 

 年明け早々「失敗」がテーマとは何事か!?と思われる向きもあるかも知れませんが、日々の生活にも必ず役に立つ考え方が紹介されていますので、年始の戒めと思ってご容赦願います。

 

 「失敗学」の開祖である畑村先生は「失敗」の権威ということで、歴代の名だたる事故・事件の分析に携わっておられるということで、この本では2005年のJR福知山線脱線事故や、みずほ銀行発足当初の一連のシステムトラブル、東海村での原子炉の臨界事故といった事件・事故を題材に失敗に至った原因と経緯を紹介されています。

 

 よく何らかの問題が起こると「原因」の追究が行われることが多いですが、畑村先生によると「原因」が「結果」としての事故などの失敗に直結しているワケではなく、大きな自己だとほぼ例外なく何らかのヒューマンエラーが介在しているということで、「原因」と「結果」の間の「行動」についても分析しないと、今後の再発防止に向けた対策にはならないということで、「原因」「行動」「結果」それぞれの「まんだら」と言うチャートを用いた失敗の分析を紹介されています。

 

 畑村先生は元々工学系の研究者なので、エンジニアリング系の専門的な分析も時折飛び出して、その辺りはワタクシとしてはスルーしてしまうことになるのですが、それでも多くの人々が仕事で経験したであろう「失敗あるある」が満載です。

 

 例えば、割と失敗やミスに対して日頃からキビシめの対応をしている職場で意外と大きなトラブルを引き起こす可能性が高いということなのですが、そういう職場ではミスの防止などの対応に日々消耗していて、却って注意力が散漫になっていることが多いようで、なんでもかんでも対応しようとするのではなく、優先順位をつけて影響の大きなモノから低いモノへと対応の濃淡をつけないと、リスクが高まるということです。

 

 また、コスト削減だったり、納期遵守だったりと、目標達成への締め付けがキツイと、本来最重要視すべき安全が蔑ろになるということで、ダイヤの定時確保を実現しようとして107人もの死者を出すことになった福知山線脱線事故や、作業効率を重んじて臨界事故を起こした東海村のJCOの原子炉の事故などの事例を引き合いに出されています。

 

 畑村先生は「危険学」というジャンルも提唱されているのですが、「危険」というのは業務プロセスの中で、こういうことが起こるかも知れないということを現場の実情に即してくまなく洗い出した上で、それぞれのリスクに対してどれくらいの対応を考えておくかということをされるそうですが、そういう事前の想定とともに、常に「失敗は起こりうる」という考えの下に、こうなったらどうする、ということを考える姿勢を習慣づけておくことが防止につながるということで、日々の生活の中でもキモに銘じておきたいところです。