エレガントな毒の吐き方/中野信子

 

 

 脳科学者の中野センセイが、京都の伝統的なコミュニケーションの在り方から、人間関係を壊さずにそこはかとなくホンネを滲ませる手法について語られた本です。

 

 京都 of 京都とも言うべき洛中に古くから住む人のイメージとして、イケズだという、外から見ると何を考えているのかわかりにくい、腹黒いというステレオタイプをお持ちの方が少なからずいらっしゃるのではないかと思いますが、中野センセイはそういうコミュニケーションスタイルについて、洛中に古くから住んでいる人へのヒアリングも交えて、そのホンネと意図について脳科学的な観点を通して紹介されています。

 

 昨今は、グローバル化の進展もあって、比較的ホンネをあからさまには言わない日本人の間においても、ホンネをいうことをよしとする傾向が強くなってきているようですが、嫌悪感や怒りなどマイナスの感情をあからさまにするということは、相手との関係性を終わらせてしまうことにもつながってしまいかねません。

 

 都会やグローバルの場のように、次々と顔ぶれが入れ替わるようなところであればそれでもいいのかもしれませんが、京都の古くからの町のように、何十年も同じ顔触れと過ごす可能性のあるようなシチュエーションで、少数とはいえ決定的に人間関係を破壊してしまうことはかなりのリスクがあると思われます。

 

 とはいえ、自分の感情を抑え続けるのも精神衛生上問題があるということで、婉曲的にホンネを滲ませることで、それを汲んでくれて、行動を改めてくれる人とは良好な関係を保ちつつ、そういうニュアンスを汲み取れない人とは、そういう人なんだと判断して一定の距離感を置いた関係性を見出すための手段が、京都人の「イケズ」なんだということで、かなり洗練されたコミュニケーションスタイルと言えそうです。

 

 ロンドンなど割と古くから脈々と続くコミュニティにおいては、類似のコミュニケーションスタイルが見いだせるようで、まだまだ閉鎖的な性質の強い日本の会社組織においてもかなり参考にできるところが多いモノで、直情的な傾向の強いワタクシとしては、焦がれるほどに憧れますが、なかなかマネのできないところです…(笑)