長らく文化財の保護に携わられて来た方が語られる文化財保護の在り方について語られた本です。
元々、日本において文化財保護の必要性が叫ばれ始めたのは幕末から明治維新にかけての時期で、廃仏毀釈で仏教関連の文化財が荒廃していったことや、開国当初、文化財が次々と海外に流出していったといった事情があって、放置すれば文化財が消失してしまうという危機感から、文化財保護の制度整備が行われ始めたということです。
もともと日本においては、湿度が高かったということもあって、土蔵や木箱といった湿気を避けるための仕組みが発達しており、文化財も比較的良好な状態で保たれていたということもあったようなのですが、逆に地震などの災害が多発する環境にあったことから、災害対策が強く求められる状況にあったということで、そういう対策が発達していったということです。
また、文化財の修復という意味で、科学技術の進展に伴う修復技術の進化ということと、逆に伝統工芸の技術の維持・継承といった側面もあるということで、伝統と進化という両輪が文化財保護を支えていたということが印象的です。
この本の中で個人的に非常に興味をひかれたのが、文化財保護において「複製」が果たす役割について語られた章で、「複製」なんて言うとワタクシもどこか興醒めな想いを抱いたおりましたが、文化財の保護や活用において大きな役割を果たしていることに驚きます。
例えば、絵画を修復する際に、そこに飾ってあったものが修復のために撤去されてしまうと、寂しいというか間が持たないということもあって、複製を飾る意義もあることでしょうし、遺跡の展示などでは、発掘された文化財が遺跡の中でどういう役割を果たしていたのかということを表現したいところ、おいそれとホンモノを展示するワケにもいかないところをレプリカを展示することで理解を促すというメリットがあるということなど、様々な側面で「複製」が貢献しているというところが印象的です。
文化財の保護というと、地味な印象もありますが、非常にダイナミックな取り組みであることに驚きますし、よりリアルに歴史を感じるためにもガンバって欲しいところです!