キリンビール高知支店の奇跡/田村潤

 

 

 長らく日本のビール市場においてトップに君臨し続けたキリンビールが、1987年のアサヒビールスーパードライの発売を契機に雲行きが怪しくなり、2001年にはトップを明け渡すことになるのですが、そういうピンチの時期である1995年に、当時全国で売上最下位である高知支店に、左遷とも言える人事で赴任し、停滞した雰囲気を一掃し、徐々に地位を上り詰め、2010年に営業本部長としてトップシェアを奪回するまでのご経験をまとめた本です。

 

 赴任された当時は、トップシェアに胡坐をかいて、殿様商売的な営業でロクに客先にも足を運ばなかったような状況で、アサヒビールスーパードライにみるみるシェアを奪われても、なかなか危機感が無かったようで、そういう時期に危機感を持ったトップが叱咤激励して、現場志向を徹底させ、本来の姿に戻ったというのが実情で、ビジネス書的にそれほどの教訓があるのかと言えば、そういう停滞した組織へのカツの入れ方、みたいな部分にしか学ぶ部分はないようにも思えるのですが、ひとえに、こういう局面でこういう人材が出てきた僥倖を感謝すべきなのではないかな、という気はします。

 

 田村さんがエライと心底思えるのは、高知支店での成功事例を、そのまま昇進した四国本部長としての立場で、押しつけようとしなかったところで、さらに東海地方の本部長、全国を統括する営業本部長としての立場でも、過去の成功体験をそのまま踏襲しようとしなかったことには、それまでの取組で、社内の慣例を破って成功を収めてきただけに、類稀なる才覚を伺わせます。

 

 夜中まで営業所に残ったりと、今となってはなかなか実践しにくい施策もありますが、こういう熱の伝え方というのは、よどんだ空気の組織には必要なモノでしょうし、こういったご時世でも、ある程度の有効性があるんじゃないかな、とは思えます。