ヒトの壁/養老孟司

 

 

 2021年12月出版の『壁』シリーズ最新作ということです。

 

 時節柄コロナ禍に関するトピックや、養老先生ならではのテーマということで、ALS患者の自殺幇助事件と絡めた安楽死の問題、脳科学の問題と絡めたAIなど様々なトピックが取り上げられます。

 

 コロナ禍により価値観が揺るがされたことは多くの人が実感しているところだと思いますが、これまでの『壁』シリーズでおっしゃられてきたことと被る部分もあるのですが、どちらかというとこれまで、ある程度若かったり、病気と縁が無かったりする人にとっては、養老先生の解かれる死生観みたいなものを、リクツとして理解はしてはも実感することは薄かったんじゃないかな、と思うのですが、ある程度「死」というものが現実味を帯びて接近してきたこともあって、以前よりははっきりとした輪郭を以って腑に落ちた部分があるのではないかと感じます。

 

 また、時折養老先生が触れられているAIのことですが、特に日本でその傾向が強いんじゃないかと思うのですが、AIが世の中における判断を下す場面が増えてきて、様々な判断の標準化みたいなものが進んで行くと、段々とフツーの人間の判断もそれに近づいて行って没個性化が進むのではないかと示唆されていることに、今まで聞いたことのない指摘でアリながら、なんとなくそうなるのかもな…というミョーなナットクをさせられてしまいます。

 

 何か今まで養老先生の書いていることが理解しにくかったのは、そういうことだったんじゃないかとという、そんな気がしました。