(株)貧困大国アメリカ/堤未果

 

 

 

 『ルポ貧困大国アメリカ』『ルポ貧困大国アメリカII』に続く、アメリカの貧困の状況を追った堤未果さんの著書で、オバマケア導入に向けた混乱について紹介した『沈みゆく大国アメリカ』はこの本の後に出版されたようです。

 

 今回取り上げられているのが、貧困層の食に関するサポートを中心に、教育などの住民サービスも取り上げられているのですが、にわかに真実とは信じかねるほどの悲惨な現実を明らかにされています。

 

 一定の収入ラインを下回ると、毎月一定の金額の食糧の購入代金をカバーしてくれるフードスタンプという制度があるそうで、それ自体はいいことだと思うのですが、それにウォール街の意向が加味されると、食品メーカーが自社の製品を対象にしようとするところまでは、まあアリかな!?とは思うのですが、その対象となる製品が加工度が高く、かなりのジャンクフード的なモノがほとんどで、そういう食品を中心にした食事をとっていると、特に子供を中心として肥満度が進み、成人病のような症状を示す子どもすらいるということで、堤さんは国家ぐるみで貧困ビジネスをしていると強く非難されています。

 

  また教育などを含めた住民サービスでも効率第一の考え方が過剰になり過ぎて、ほとんどの自治体において、本来必要と思われるサービスがどんどんと廃止されて行き、かつ自治体自体も困窮のあまり、存亡の危機にあるところが多いということです。

 

 一連のアメリカの貧困に関する著作を読んでいると、本来国家の繁栄のために国民の健康で精神的にも充実した生活を送れるようにする状況を確保することが国家の責務と考えるのが西欧的な価値観だと思っていて、そういう西欧的な価値観を守るために他国への介入も辞さなかったはずのアメリカが、ウォール街の意向のままに、見た目は国民のためにした施策のように見えながら、その実、経済界の効率と利益のためとしか思えない施策で、国民とくに貧困層の犠牲を強いる政策がとられてきたことを知って正直ショックでしたし、堤さん自身アメリカを愛しておられたにも関わらず、こんな状況をみてそれを正さなければという正義感でこういう著作を世に問い続けているのでしょうけど、これまでアメリカが自由主義的な価値観を武力を以ってしてでも押し付けようとしてきたことが欺瞞としか思えないというのが正直な感想です。