サピエンスの未来/立花隆

 

 

 昨年亡くなられた”知の巨人”立花隆さんが1996年に東大教養学部で行われた「人間の現在」と題した講義の講義録としてまとめらた本です。

 

 ビッグバンから人間が出現して、現在の人類の繁栄までを追った壮大な講義で、進化論的な内容を中心に語られているのですが、個々の科学的な論拠についての言及はかなり難解なモノがあって、なかなかついて行くのはキビシいトピックが多いのですが、所々に立花さんが科学をする態度というか、科学的な視点の持ち方みたいな、そもそも学問に対峙する姿勢みたいなモノを話されているのが非常に印象的です。

 

 そういう科学的な視点というのは地球の中で人間だけが持ちえたものであって、人間の「お互いの体験の中から有意味で関連性のある部分を抽出し、それを伝えあい、蓄積する方法」の獲得が、地球における優占種としての地位を確立した要因だとされており、それだけに地球上での様々な進化に対する責任を追っていることを意識すべきだとおっしゃられているのが印象的です。

 

 さらにはそういう科学的な進化に対する人間が形成する社会への浸透について、キリスト教の科学の進化の受容の過程を例に取って語られていて、社会として新たな現象を如何にして受け入れていくのかという姿勢が、実は科学の発展にとって重要だということを改めて印象付けています。

 

 こういう立体的な捉え方の提示というのが立花さんの真骨頂であると思われ、こういう総合的な知を持つ人がひょっとしたらもう存在しないんじゃないかと思うと、逝去の損失の大きさを想わざるを得ません。