こんなに変わった![日本史]偉人たちの評判/河合敦

 

 

 最近はNHKの『歴史探偵』にも定期的に出演されるなどメディアへの登場も多くなってきている河合センセイですが、この方はとにかく著作を企画される際の切り口のオモシロさが際立っており、いつもワクワクさせていただきますが、この本はまだ都立高校で教鞭を取られていたはずの2008年の出版なのですが、日本史上の偉人の毀誉褒貶を語るという、既にソソる企画力は確立されていたようです。

 

 歴史上の人物の評価というのは、意外かもしれませんが世相を反映している場合が多く、人によっては乱高下することがあるということをこの本では指摘されていて、そういう毀誉褒貶の激しい人物を中心に紹介されています。

 

 わかりやすい所で言えば、戦前は「軍神」として崇められ、実際に乃木神社に神として祭られている乃木希典ですが、司馬遼太郎氏が『坂の上の雲』や『殉死』などの著書で、日露戦争の旅順攻囲戦において拙劣な作戦により多くの兵士を死に追いやった結果になったことをハゲシく糾弾したことをキッカケに無能な司令官との評価が一気に広まってしまったことを紹介されています。

 

 また、戦前はどこの小学校にもあった二宮金次郎像が今やほとんど見かけることができなくなったように、為政者が自身の政策に都合の良い歴史上の人物のエピソードを取り上げることで持ち上げられ、その影響力がなくなれば、まるで見向きもされなくなるという現象も指摘されています。

 

 一番この本に相応しいのは足利尊氏かも知れず、明治維新以降一度は英雄として持ち上げられたモノの、次第に明治政府が南朝を皇統としたことで裏切りモノとして像が破壊されることもあったようですが、戦後は再び評価されるようになるという絵にかいたような浮沈を描かれています。

 

 そんな中で最終章に「悪役」との評価が多くを占める、蘇我入鹿平清盛などが取り上げられていますが、その後好転するかもしれませんよ!?みたいな含みで紹介されているようで、実際その後平清盛大河ドラマで取り上げられたことで、日宋貿易の指揮など際立った経済政策が見なおされることになります。

 

 この本では取り上げられていませんが、汚職の権化とされる徳川幕府の老中だった田沼意次も最近はその経済政策が高く評価されているようで、歴史上の評価なんて相対的なモノに過ぎないんだなぁ、と思わされます。