歴史の本棚/加藤陽子

 

 

 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』など、戦争までの昭和史の研究で知られ、就任当初の菅元首相による日本学術会議メンバーへの任命拒否の渦中に巻き込まれたことでも知られる加藤先生が毎日新聞の『今週の本棚』という連載に寄稿された書評を集めた本です。

 

 毎日新聞の書評というと、割と一般向けの書籍を取り上げることが多いんじゃないかと思いますが、少なくともこの本に収録されている書籍を見る限りかなり専門的な歴史の研究者向けの書籍がほとんどであることもあって、馴染みがあったり、手に取ってみたいと思える本が極めて少ないのはワタクシ自身の教養レベルの低さなのかも知れず残念なところではあります。

 

 時折、柴田錬三郎などの小説も取り上げられているところに驚いたりもするのですが、それよりも興味をソソるところが、古文書マニアである磯田センセイの『歴史の愉しみ方』じゃないですが、歴史の研究者としての視点というか観点みたいなものを垣間見れるような気がするところかもしれません。

 

 吉田茂らの日英開戦阻止の動きを追った『大英帝国の親日派 (中公叢書)』や『安達峰一郎: 日本の外交官から世界の裁判官へ』など、歴史のメインストリームというよりも、どちらかというとそういう大きな流れに抗おうとするような人を研究対象とされているようで、そういう周辺的なことも併せて理解しておくことで、歴史観を立体的で豊かなモノにしようという意図があるのかも知れません。

 

 政治家のセンセイ方というと、読書家として知られる人であっても読む本は歴史小説程度だったりすることが多いようで、そういう人々にしてみればこういう教養の深さが羨ましくも妬ましいモノなのかも知れず、元々日本学術会議への任命拒否も反知性派の巨魁である安倍元首相が決めていたことらしく、ある意味“らしい”子供っぽさだなぁ、と思ってしまいます。