ゼニの幸福論/青木雄二

 

 

 バブル崩壊前後の1990年代初頭に、いわゆる街金を舞台におカネに翻弄される人々を描いて一世を風靡した『ナニワ金融道』を世に送られた、この本を出版された当時は既に元漫画家となられていた青木雄二さんによる、おカネに纏わる”幸福論”です。

 

 おカネが無くてはなかなかシアワセになることは難しいのですが、かならずしもおカネが人々をシアワセにするワケでもなくなく、『ナニワ金融道』に中でもおカネを持ったが故に不幸になる人々が描かれていて、何とも厄介な存在でもあります。

 

 青木さん自身も、最終的には漫画家として成功されて巨万の富を得てシアワセを手に入れたワケですが、それまでには会社を潰して巨額の負債を抱えたりと、おカネに翻弄されてきたということで、その経験が『ナニワ金融道』や、漫画家引退後に出版されたおカネに纏わるエッセイに盛り込まれているということです。

 

 ただあれだけの成功者でありながら、おカネを稼ぐことにかなりシニカルなモノの見方をされていて、持てるものと持たざるものの遠く深い狭間を強調されていて、結局は資本主義においては、そこを乗り越えていくしかないということをおっしゃられていて、どこか昨今もてはやされるマルクス経済学的な匂いを感じるなぁ、と思っていたら、青木さんはバリバリの共産主義者だったんだそうですね!?

 

 多くの共産主義国では、資本主義国同様自分だけトクをしようとする権力者の跋扈によって失敗に終わりましたが、青木さんはそういう人の跋扈を防ぐ仕組みがあれば、マルクスが唱えた理想の実現は可能だと考えられているようで、資本主義の限界が当時より明確となった今日、よりクローズアップされるようになったマルクス経済学の有用性を当時から見通されていたようです。

 

 安倍政権を象徴とするように、政治家も官僚も倫理観を無くして自己の利益しか見なくなったような状況をみたら、今は亡き青木さんがどう思うだろうかということに興味がありますが、やはりマルクス経済学的な全体利益が一定の処方箋になるんじゃないかということを、約25年前の著作に痛感させられた次第でした。