なぜ日本の教育は迷走するのか/大内裕和

 

 

 『現代思想』という雑誌の教育問題を取り上げた対談をまとめたモノで、教育学者で入試問題などへの造詣の深い大内裕和さんが、金髪の教育評論家で時折メディアにもコメンテーターとしてお見掛けする内田良さんや、同時通訳者の草分けでNHKラジオの英語講座の講師としても知られ、英語教育問題について多くの著書を持つ鳥飼玖美子さんなどとの対談を収録されています。

 

 『現代思想』では教育問題を再三取り上げておられて「ブラック化する教育」としてシリーズ化されているようで、この本はその「2019-2022」版だということのようです。

 

 この本では前半が教師のブラックな勤務実態についてで、後半が教えられるカリキュラムの空洞化といっていい内容になっています。

 

 いずれにおいても共通する部分として、教師の「定額働かせ放題」に象徴されるように、日本の教育においては何故か効率化がやたら重視されるようになり、教師が疲弊して教育の質が低下するだけではなく、教える内容も産業界が求める即物的なスキル重視みたいなモノとなっており、かなり厚みのないモノとなっている印象を受けます。

 

 例えば、国語だと「論理国語」なんてモノが設定されて、実用的な読み書きができればそれでいい、という風潮が感じられたり、英語だとただ単に会話力ばかりが重視されて、ロクに読み書きもできない生徒が生み出されたりと、そこまで割り切ってしまうとペラッペラに薄っぺらい即物的な人間しか生み出せないような気がして、ただでさえグローバルなトップエリートとの差が拡大しつつある日本のエリート層の育成なんて、望むべくもなくなってしまいそうです。

 

 そもそも教育なんて、最も効率とはキョリのあるようなもののような気がするのですが、そんなところにまで即物的な尺度を持ち込もうとするなんて、このままじゃかなり日本の将来は暗いモノになってしまいそうです…