宇沢弘文/佐々木実

 

 

 この本の主役である宇沢弘文さんはレーガン政権の経済ブレーンとしてレーガノミクスの思想的な基盤となったフリードマンがライバル視し、その動向を気にし続け、ノーベル賞学者となるスティグリッツを指導たという経済学者で、その理論と生涯を紹介した本です。

 

 元々数学の研究者だったのが、経済学者に転向しマルクス経済学を専攻していたのですが、ひょんなことから近代経済学に転向した途端、数学専攻の経験を活かした数理経済学が評価された結果、アメリカに招聘され、当時最先端で、新古典派経済学の一大牙城であったシカゴ大学フリードマンらとしのぎを削られることになります。

 

 その後、周囲がケネディ政権の中枢で経済政策策定を担う中、戦時中から筋金入りの反戦主義者だった宇沢さんは、結果としてベトナム戦争への協力を余儀なくされる周囲に落胆し、アメリカを去ることになります。

 

 日本に帰ってからも、どちらかというと日の当たらないところにおられたのですが、水俣病の広がりを目の当たりにして、その被害者の支援をしつつ、そういう状況を生むことになった経済、社会的な環境に対して、経済理論から負の外部性を防止するための理論である社会共通資本の経済学を提唱するに至ります。

 

 その中で、SDGsが提唱される30年も前である1990年から公害などの補償のための基金作りを提唱するなど、もしこの提唱が取り入れられていたら、世が世なら日本人初のノーベル経済学賞の受賞につながったのでは!?と思うほどの先見的な理論に驚きます。

 

 それにしてもやはり世界に注目されるような学者って、アメリカ育ちなのね…