ケインズ/伊藤宣広

 

 

 ケインズが属したケンブリッジ派の経済学者を研究されている方が語られるケインズの生涯です。

 

 長らくマネタリストの台頭で非難の火だるまとなっていましたが、ポスト・コロナの経済政策において、欧米を中心として多数の国が積極的な財政政策を取って、経済のV回復を実現したことで、久々に脚光を浴びているケインズの生涯を追った本なのですが、かなり早いうちから英国大蔵省で経済政策を担うなど、活躍をしていながら、いわゆる「ケインズ政策」と言われる積極的な財政政策による総需要の喚起が特徴的な『一般理論』にたどり着いたのは、かなり遅くになってからだったということに、まず驚きます。

 

 当初は『貨幣論』などの著書などからわかるように、金融政策を重視していたということなのですが、実務の中で、ここ数十年の日本経済同様、デフレ的な状況の中で金融政策にできることがかなり限られているということを悟り、次第に財政政策の有効性を確認する中で乗数効果を見出していったようです。

 

 割と経済学者は、自身の理論に原理的にこだわる教条主義的な人が多い様で、そんな中でコロコロということを変えるケインズを揶揄する向きもあったでしょうけど、だからといって自身の理論に固執したからと言って、実体経済に何らかの効用をもたらすことができたのか、というとかなり怪しいところで、実態に合わせて自説にこだわらず、新しい論理を見出そうとした姿勢も、ある意味科学者として潔い態度だった煮ではないかということのようです。

 

 また、ケインズが名を馳せたといわれる、アメリカのローズベルト大統領によるニューディール政策ですが、実はローズベルト大統領自身かなりの緊縮財政主義者で、ケインズの助言を聞いてはいたモノの、ほとんどスルーだったということで、実はあまりケインズニューディール政策に及ぼした影響は小さかったとのことですが、結果として、軍需関係の財政支出を拡大せざるを得なかったということで、不本意ながらもケインズの主張が正しかったということが実情のようです。

 

 いずれにせよ、図らずも未だにケインズの理論が有効だったということで、「ザイム真理教」の信者たちには、諸外国の財政政策の実情と効果をしっかりと認識してもらいたいモノです…