目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】/中野剛志

 

 

 現役の経産省完了でありながら多くの著書、しかも割と日本の経済政策に批判的なモノを出版されていることで知られる中野剛志さんによる経済政策にまつわる本です。

 

 基本的には、いわゆる「失われた〇十年」における経済政策への否定的な評価ということになるのですが、中野さんご自身いわゆるMMT派と言われる積極的な財政出動を是とされる論調で、いくら財政赤字を抱えても破綻することはないというスタンスです。

 

 前半に経済政策の基本的な考え方を述べられた上で、後半でアベノミクスを理論的に支えたエコノミストへの批判という形式をとられています。

 

 この本の中で中野さんは「合成の誤謬」という経済学上の用語を繰り返し強調されているのですが、個人や企業といった個々の経済主体が、それぞれにとって合理的で最適な経済行動をとることが経済全体として好ましくない影響を与えるということで、デフレ期において、収縮的な経済活動をすることがよりデフレを悪化させる方向に作用していたことを指摘されています。

 

 そんな中でその「合成の誤謬」を修正する方向に誘導することが有効な経済政策になったはずだということなのですが、それをできるのが政府のみであり、その施策が的を得たモノではなかったことが20年以上にも及ぶデフレとなり、先進諸国の経済拡大から取り残される結果となったということです。

 

 政府・日銀は金融緩和策によるマネーサプライの拡大にのみ頼っていたようなところがあり、本来であれば積極的な財政出動で国民や企業におカネを使わせるように仕向けるべきだったのが、むしろそこで中途半端に財政均衡に色気を出して、財政出動を控えるようになったことがデフレ脱却を遅らせることになり、さらにはその過程で消費税増税をすることで冷や水を浴びせて、マネーサプライの拡大を無効化させてしまったということもあったようです。

 

 個人的にはいくら借金をしても…というところには釈然としないところもあるのですが、多くのエコノミストも批判しながらも、理論的に論破できていないところがあるようで、借金を増やすことへの心理的な抵抗といった情緒的な側面でしか反論できていないように見えるところも確かだったりします。

 

 あまり経済的な前提知識がなくてもかなりわかりやすく説かれていて、信用創造や財政・金融政策のメカニズムを理解しながら、アベノミクスの問題点がよくわかるのですが、ある程度財政政策をカジッた人にとっては、かなり衝撃的な内容で、官僚らしくなく盛ってるなぁ…と最初は思ったタイトルや前書きも、読み進むうちに全然大袈裟じゃないかも!?と思わせるほどで、続編を読むのが楽しみで仕方ありません!