古代史サイエンス/金澤正由樹

 

 

 コンピューターサイエンスの研究者でありながら、”趣味”で日本史の研究もされているという方が、サイエンスの観点から古代史の謎を紐解いた本です。

 

 近年、日本史本でヒット作を連発していて、日本史学会では異端を自認されている本郷センセイが自伝的な著書である『歴史学者という病』の中で、日本史学におけるファクトとロジックに基づく科学的なアプローチについて語られていますが、この本では一歩進めて、DNAやゲノム分析などの自然科学を駆使された研究を紹介されています。

 

 そんな中で、従来大陸から朝鮮経由で伝来していたと考えられてきた稲作が、実は朝鮮には日本から伝わっていたということを紹介されています。

 

 またゲノム分析によると縄文人と現代の日本人に直接な連続性が見られないということについて触れられていて、その原因として混血だけでなく、気候変動やパンデミックの影響もあるのではないかという仮説を提示されています。

 

 さらには本郷センセイが提唱されるようなファクトとロジックに基づく科学的なアプローチについても語られていて、日本書紀がどのような目的でどのように書かれたかを考えると見えてくることが多いということで、なぜ中国の史書にあれだけハッキリ登場する邪馬台国日本書紀に登場しないのかということについても紐解かれています。

 

 また、出口さんが神話の象徴的な記載には歴史的な事実や天変地異などが反映されていることが多いとおっしゃっていることについて、この本の中では天照大神の天の岩戸隠れの伝承について語られていますが、あれはその当時日食があったことを暗示しているということのようで、そういうことも気象学の研究から紐解けるようです。

 

 こういう科学的なアプローチに対して、日本史の権威と言われるセンセイ方の多くは、かなり激しいアレルギーを示されるということで、稲作の伝来など農学的には議論の余地のなさそうなエビデンスが提示されている事象についても、エライあの先生がこう言っているんだから、その論はマチガイだとおおよそ科学的ではない反論をすることも少なくないようですが、そんなことをしていたら日本史自体が衰退していかないかと心配にはなるのですが、そういう因習も歴史好きのサイエンティストたちが突き崩してくれるのかもしれません。