偽物論/尾久守侑

 

偽者論

偽者論

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 精神科医であり、かつ詩人でもある著者が、「表面上はうまくやっているけれど「自分は本物ではなく、偽物である」という虚無感を拭うことができない、現代のパーソナリティをもつ人々」である偽物クラスタについて、ご本人とおぼしき精神科医の日常を通して垣間見るというカタチをとられています。

 

 「世間カメラ」に監視されつつ精神科医として無難に日常を送る反面、妄想とリアルな現実が判然としない世界を行き来されている様子が描かれているのですが、それがホントにご自身なのかどうかも判然としませんし、混とんとした世界観はかなりディープにヤバさを感じさせるモノではあります。

 

 ただ、普段フツーに生活していても、何か得体のしれない不安に駆られて自我が崩壊しそうな危機というのは、余程ノー天気か自信過剰なキャラでなければ誰しも体験した記憶があるはずで、こういうフツーの状況を症状の濃淡があるとはいえ、精神疾患の予備軍的に扱うことについては、個人的には常々ギモンを感じているワケですが、グレーの色彩が濃くなってくれば、まぎれもなくヤバい状況なようで、この本で提示されている世界というのは、ちょっとしたキッカケで誰しもがダークサイドに落ちかねないというフツーに現実的なリスクを示されていて、ある意味ごくごくフツーの風景であるだけに却って背筋が凍りそうな想いをさせられるリアルにコワい本でした…