部下の仕事はなぜ遅いのか/日垣隆

 

 

 2015年に脳梗塞で倒れられ、回復の過程を『脳梗塞日誌』『脳卒中からの帰還』で語られた日垣さんですが、この本はそれ以前の2008年の出版となっています。

 

 この本はタイトルだけ見ると部下の仕事の遅さを嘆くようにも見えますが、実際には部下の育成の考え方について語られたモノで、マスコミや医師、人材マネジメントの専門家など、様々な分野のエキスパートを巻き込んでの人材育成論となっており、部下の仕事が遅いのは、「上司のせい」だということのようです。

 

 その「育成論」というのも様々な観点からのモノとなっていて、単にノウハウを教えるということもあるのですが、フツーにありがちなOJTで上司が部下に「教える」際に、具体的なノウハウに基づかない「感覚的」な教育をしてしまうことがほとんどで、そのことが部下の成長を妨げているということがあるようで、上司がシステマティックな教育のノウハウを持っていないことが問題であることが多いようです。

 

 そういう場合の育成のノウハウについて、どの世界でもある一定の人数が参画している分野では、誰かがどこかで読めば/見ればわかるようなノウハウを提示していることが多いということで、そういうモノを探す努力をした方が、実際に自分で育成のノウハウを確立するよりも効率的だとおっしゃられているのが、かなり目からウロコです。

 

 さらには、やはり結局成長というのは自ら学ぶことがベストだということもあって、実は「教えない」というのが最善の「教育」だというある意味日垣さんらしい「教育論」があって、一旦、失敗してもそれほど痛手がない範囲の仕事を完全の任せてしまって、どうすればいいかということを誰にも聞けないような環境を作ってしまって、部下が自力で解決法を見出すしかない状況を作るという方法を提示されていますが、確かにそれはハードではあるけれども大きな成長につながるんだろうなあ、とナットクさせられます。

 

 なかなか部下の教育もセンシティブになってきている昨今ではビミョーな内容も無きにしも非ずですが、やはり自律的な成長を促すというのは王道なのかもしれません。