面白くて眠れなくなる日本語学/山口謡司

 

 

 これまでこのブログでも『宗教学』『社会学』版を紹介してきた『面白くて眠れなくなる』シリーズですが、今回は『日本語学』版を紹介します。

 

 「面白くて眠れなくなる」シリーズは、様々な学問分野の概要を紹介して、その分野への興味を促す意図があるんだと思われますが、これまで紹介した『宗教学』『社会学』版は、それなりに概要を把握できる内容ではありながら、「面白くて眠れなくなる」かどうかは甚だ疑わしいかったのですが、今回の『日本語学』版はホントに興味深い内容が満載です。

 

 フランス語では日本語の「は・ひ・ふ・へ・ほ」に該当する音韻は存在しないということはよく知られているんじゃないかと思いますが、日本語の音韻も現在とはかなり異なっていたようで「さ・し・す・せ・そ」は、かつては「しゃ・し・しゅ・しぇ・しょ」に近い音韻だったなど、かなりの変遷を経て現在のカタチになったこと、後述しますが、現在のカタチになったのは、かなりの作為を経てのことだったということです。

 

 一番興味深いというかオドロいたのは、明治維新において、あまりに日本中の方言がキツ過ぎて地方出身者同士の意思疎通の大きな障害になったことから、日本語の共通化ということが大きな課題になったということで、一部では英語を公式言語にしようという動きもあったようで、それはアメリカの言語学者に止められて思いとどまったようですが、かなりドラスティックな変化だったことがうかがえます。

 

 そういう日本語の「共通化」の動機には、中国を始めとする東アジアが当時欧米列強の圧迫を受けていたことを見て、漢字を使用していることが科学技術の進化の障害になっているという、今から見るとかなり極端なモノの見方があって、漢字の廃止には至らなかったモノの、今の常用漢字ではないですが、公式に使用する漢字を大胆に整理するなど、大胆な施策をとったようです。

 

 歴史の教育では文学界の取り組みのようなニュアンスで取り上げられがちな、「言文一致運動」ですが、実はこういったトップダウン的な動きの一環だったようで、現在の日本語はこういった「作られた」モノである側面が強いということに驚きます。

 

 ということで、日本語についての様々な小ネタも交えて、かなり興味深い内容となっており、トリビア的な楽しみ方もできますし、我々の言語である日本語を振り返る意味でも一読の意義があるモノだと言えそうです。