年収443万円/小林美希

 

 

 他のOECD諸国が経済規模を拡大し所得が急伸する中、日本のみ所得の伸びで取り残され、一人当たりGDPOECD諸国の中で底辺を這うようになっているという認識がようやく日本でも一般的に浸透してきましたが、経済誌などの記者をされていた方が低所得にあえぐ人々の状況を紹介した本です。

 

 前半は平均年収443万円周辺の方の状況を紹介されていて、世帯年収で言うと1000万円前後ということで、それだけあって汲々しているのはちょっとフシギな気もしますが、やはり近い将来子どもにかかる費用や、その収入を将来にわたって安定的に維持できるのか!?という不安の要素も大きいようで、なかなかゼータクをすることはできないようです。

 

 それが平均以下の収入となると、コロナ禍で仕事を失ったシングルマザーの家庭など、カタチばかりの支援もなかなかストレートに行き届かないということもあって、かなり悲惨な状況で、これが少し前まで世界でも冠たる経済大国であった国に住む人のことかと訝しんでしまいたくなるほどの体たらくです。

 

 この遠因としては、やはり非正規雇用の拡大というのがかなり大きな要素だということですが、派遣雇用の拡大が取りざたされていた時に、著者の小林さんが取材で知己を得た伊藤忠の名経営者として知られる丹羽宇一郎さんに、2004年に雑誌への企画について相談に行った際に「若者の非正規雇用化は中間層を崩壊させ、やがて消費や経済に影を落としていく。このまま中間層が崩壊すれば、日本は沈没する。」とおっしゃったそうなのですが、まさに現在の日本は丹羽さんの予告の通りの沈没状態となっており、今のところ再生の糸口すらつかめないように見えます。

 

 特に日本の強みであった製造業が深刻なダメージを受けているとともに、エッセンシャルワークである介護職や保育職において、求められる責任と比して、あまりにも報酬が低すぎることもあって、業界全体が殺伐としているということもあるようで、数十年にわたってこういう状態を放置し続けた政府自民党が、なぜ未だに政権にあるのか、個人的にはフシギでしょうがありません。

 

 現在の政治家に職業的な倫理観がホンの少しでもあるのなら、こういう状況を放置しておくなんてありえないとしか思えないのですが…