中流危機/NHKスペシャル取材班

 

 

 2022年9月に放送された『NHKスペシャル”中流危機”を越えて』の取材を元に、日本における「中流」の現状をまとめられた本です。

 

 かつて高度経済成長期には「一億総中流社会」と言われる世界史上でも稀に見る均質な社会だったワケですが、バブル崩壊から規制緩和による非正規労働の拡大を受けて、”中流”が様変わりした様子を追います。

 

 かつては、”中流”というと一軒家のマイホームや自家用車を保有してというイメージだったと思いますが、年収の中央値が1994年の505万円から2019年には374万円と100万円以上も下落したことで、かつての”中流”のイメージの生活がむしろゼータクに映るようにすらなっているようです。

 

 この本では、なぜそんな風になってしまったのか、ということを今後”中流”を取り戻すための方策について紹介されています。

 

 原因としてはやはりバブル崩壊以降、不良債権処理に追われた企業が活力を失い、コストカットによる利益確保に汲々とする中、派遣社員規制緩和に乗っかり非正規雇用を拡大させて、人材の育成を放棄してしまったことが大きな原因とされています。

 

 そんな中で、”中流”を取り戻すための方策については、やはり人材の育成を再度積極的に行うべきだということで、ドイツでの国家を挙げてのリスキリングの状況や、オランダにおける同一労働同一賃金の実現による女性の社会進出の促進の事例を紹介されています。

 

 中には日本におけるリスキリングの事例も紹介されているのですが、かなり限られた企業でのモノに過ぎず、多くの労働者は蚊帳の外に置かれているというのが現状であり、同一労働同一賃金についても、掛け声ばかりで実質的な取り組みは、リスキリング同様企業に丸投げの状況では、結局リソースの限られる中小企業にそんな余裕もなくて取り組みができないということであれば、7割以上の労働者は恩恵が享受できないということになるワケで、政府の無策ぶりがクローズアップされたカタチになっているのが悲しいところで、「失われた〇十年」は、あとどれくらい続くのか…と暗いキモチにさせられます。