性と宗教/島田裕巳

 

 

 以前、『新宗教と政治と金』を紹介した宗教学者島田裕巳さんが、それぞれの宗教の性とのスタンスについて語られた本です。

 

 宗教と性との関わりというと、元々仏教の僧侶は妻帯が禁じられていましたし、キリスト教のうちカトリックの司祭は未だに妻帯が禁じられているということで、多くの宗教が性と一線を画しているイメージがありますが、フリーセックスを標榜する新興宗教があったり、世界宗教の中ではイスラム教が、実は性に関する禁忌が少なかったりと、宗派によってかなりスタンスが異なるということを指摘されています。

 

 じゃあ、初期仏教やカトリックがなぜ性を遠ざけようとするか、ということについては仏教の五戒だったり、旧約聖書における姦淫の禁忌だったりということが根拠になるワケですが、そもそもなぜそういう禁忌ができたかということについて語られることは少ないようで、根本的な経典にそう書かれているから、と言われれば、そうですか…というしかないということのようではあります。

 

 ただ、アダムとエバ(イヴというのが方がすんなり響く気はしますが、この本ではそういう表記になっています。)が犯した原罪の逸話や、仏典など、性行為自体が多くの苦悩の素となっていることに触れられているのは、ビミョーにナットクさせられる気はします…(笑)

 

 イスラム教に性に禁忌が少ないのは、その成り立ちに根差すものがあるようで、ムハンマド預言者となったのが40歳代だったということもあってすでに妻帯者であり、既婚者の婚外性交以外にはさしたる禁忌がないのは自然な気がします。

 

 イスラム教というと女性のヒジャブなど、性に対して潔癖なイメージがあったのですが、あくまでも女性を男性の性衝動から守るための側面が強いようで、むしろイスラム教はフツーの市井の人々の生活に寄り添った現実的な宗教というイメージが浮かび上がってきます。

 

 我々が最も親しんでいる神道はと言えば、そもそも禁忌を語るべき経典みたいなモノが一切なく、あり方を語り継ぐ神話でもかなりあからさまな性的な表現もあるなど、かなり性的にオープンな性格があったことを指摘されています。

 

 著者の島田さんが指摘されているように、宗教の性に対するスタンスというのは、その宗教の性格を端的に表すようなところがあるようで、狭義の違いをクドクド説明されるよりも、感覚的に宗教のイメージを理解できるような気がして、かなりそれぞれの宗教の在り方がハラに落ちやすいような気がして、非常に有意義なモノだったと感じます。