帝国と宗教/島田裕巳

 

 

 宗教学者島田裕巳さんが、宗教と帝国との関係を語れた本です。

 

 これまでも折に触れて、政権と宗教の関りについて言及されることが多かった島田さんですが、今回は「帝国」と宗教との関係にフォーカスされています。

 

 そもそも「帝国」って!?ということなのですが、基本的に「王国」が単一民族で構成された国家を指すのに対して、「帝国」は複数の民族で構成されているということもあって、それだけ統治の難易度が上がってくると言うことです。

 

 そんな中で、「帝国」において宗教が果たす役割ということなのですが、元々ローマ帝国で当初弾圧してきたキリスト教を国教としたことに始まるようですが、その効用として帝国の権威付けということはわかるのですが、宗教が持つ「秩序」を帝国の統治に利用するという側面があるようで、宗教を活用としたことで整然とした統治をおこなえるというメリットもあるようです。

 

 この本では古今東西の帝国と宗教の関りを紹介されているのですが、ヨーロッパの歴代帝国やイスラム教に基づいて形成された帝国、中国における帝国などを網羅されており、一応大日本帝国についても国家神道とのかかわりについて触れられています。

 

 中国はあまり宗教のイメージがないのですが、中国の歴代の帝国は儒教の考え方に基づいて形成されていることが多く、一応儒教も宗教的な性格を帯びているモノの、他の宗教と比較して政治思想の色彩が強いということもあって、あまり宗教色は感じないモノの、統治のイデオロギーとしてはかなり強力だったということです。

 

 ヨーロッパにおける帝国とキリスト教は、手を携えあいながらも、時には鋭く対立するケースもあったようですが、イスラム帝国を始めとするイスラム教の教義に基づく帝国の宗教との一体感が印象的で、イスラム教というのは宗教的な色彩もさることながら、政治思想としての役割も兼ね備えているようで、かなりイデオロギー的にも国家の統治との相性がよかったようにうかがえるのが印象的でした。

 

 中にはモンゴル帝国のように宗教との関わりの希薄な帝国もあるのですが、宗教がもたらす統一感というのは、帝国の形成にかなり重要な役割を果たしていたということを再認識させられた次第です。