栗山ノート2/栗山英樹

 

 

 今年3月に開催された野球のWBCで見事侍ジャパンを優勝へと導いた栗山監督ご自身がWBCの優勝までの軌跡を語られた本です。

 

 元々、『栗山ノート』という、栗山監督がこれまでコーチなど指導者の経験がないまま監督に就任するにあたって、『論語』『易経』などの古典や古今の政治家、経営者などの哲学についての著作を参考にしながら、試行錯誤して自身の指導方針を練り上げていったということを記録した著書があるのですが、この本はそのWBC版ということだそうです。(今回は正編が未読であることを意識した上で、今年中に紹介しておかなければ、ということで敢えて2から手に取っています。)

 

 この本では監督就任の打診を受けてから優勝に至るまでの軌跡を追っているワケですが、元々それほどご自身の実績を評価されておられなかったようで、WBC監督就任の打診を受けたときには、もっと適任者がいるだろうということで断られようとしたそうですが、幕末の思想家で司馬遼太郎さんの『峠』の主人公の長岡藩家老河合継之助の師としても知られる山田方谷の「尽己」というコトバを引き合いに出されて、これまで野球界から受けた恩を返す機会だということで引き受けられます。

 

 その後、チームビルディングから実際の戦略、戦術に落とし込む過程においても、様々な古典の知見を引き合いに出されているワケですが、それが単なる知識レベルではなく、コトにあたって栗山さんがお持ちの様々な引出から最もふさわしいモノを取り出すという作業をされているようで、豊かな経験と知見故に選手やコーチ陣に信頼されたことをうかがわせます。

 

 特に印象的だったのが、1次リーグの韓国戦で源田選手が骨折を追った際に、栗山さん自身は源田選手の今後のキャリアも考えると離脱させるべきだと思ったようですが、源田選手が引き続きの帯同を強く希望したのに対して、栗山さんが私淑されている哲学家の森信三さんの「野心と志を区別せよ」というコトバを思い起こして、源田選手の情熱というのは「志」なんだということをナットクされて引き続き帯同し、その後の優勝への貢献につながったということのようです。

 

 古典なんか何の役に立つんだ!?と短絡的なノウハウ本に飛びつく「意識高い系」のビジネスパーソンも少なからずおられるようですが、もっとエラくなってギリギリの判断を迫られたときに、如何に古典の教えが役に立つのかということをまざまざと示す最高の実例だと言えるでしょう…