ルポ大谷翔平/志村朋哉

 

 

 大谷翔平が所属するエンゼルスの本拠地アナハイムがあるオレンジ・カウンティ(日本で言う郡のような行政単位)のローカル紙勤務の日本人記者が日本語と英語の橋渡しができるからということで、大谷選手のエンゼルス移籍を期に大谷選手を中心とするエンゼルスの取材に注力されるようになったということで、大谷選手のメジャー移籍からMVPを受賞した2022年のシーズンくらいまでの軌跡を紹介された本です。

 

 3度のMVP受賞歴を誇るマイク・トラウトを擁しながら、近年長らくポストシーズンとは縁のないエンゼルスですが、メジャー10球団以上が興味を示したと言われる大谷選手がまさかの移籍を決めたということで、地元も相当ざわめいたようで、急遽野球とは縁のなかった著者が日本語ができるという理由で大谷選手の取材に立候補されて、受け入れられたようです。

 

 ベテランのMLB取材記者や津波のように押し寄せる大谷選手目当ての日本メディアを向こうに回して、野球の取材経験のないローカル紙記者ということで苦労はあったとは思いますが、並々ならぬ情熱をもって、野球の研究に没頭し次第に沼にハマっていく様子がうかがえます。

 

 元々、野球とは無縁のローカル紙記者だったということもあり、最終章ではアメリカ社会における大谷現象のプレーンな視点のレポートがあり、実はこの本の中でこの章が個人的には一番印象的だったのですが、アメリカにおけるMLBの置かれた、他の4大酢ポートと言われるアメフトやバスケットボールと比較した際の状況の厳しさと、それゆえに、他のメジャースポーツのアイコンとも言える大物選手とも比肩しうる個性を持つ大谷選手に寄せられる期待の大きさというモノがヒシヒシと伝わってきます。

 

 何よりも、大谷選手の取材を経て、その存在に惹かれた挙句、オレンジ・カウンティのローカル紙の記者の地位を投げうって、フリーとして大谷選手の取材に専念することにした著者の決断が、大谷選手の存在感の大きさを際立たせている気がします。