夫のLINEはなぜ不愉快なのか/山脇由貴子

 

 タイトルを見ると黒川伊保子さんの『妻のトリセツ』を始めとする、男女の脳の性差に関する本を思い出しますが、この本は黒川さんの諸作とは異なって、ある程度シリアスなトーンのモノとなっています。

 

 この本は、家族問題のカウンセラーとして活躍されている方の著書で、男女の思考の差だけではなく、育ってきた環境などに根ざす差異なども含めて、夫婦間に軋轢をもたらす要素を詳細に指摘されています。

 

 ダンナさんのLINEのメッセージに奥さんがイラッとするのは、まあその表れと言えるのですが、大きな原因の一つとして指摘されているのが、ダンナさんと奥さんがお互いに求めることの差異があるとおっしゃっているのですが、具体的に求めることは異なっているものの、双方ともご自身のお母さんの役割と求めているということです。

 

 じゃあなぜそこに「差異」が出てくるかということなのですが、ダンナさんの方が自分のお母さんに、食事や洗濯など自分の生活を”整えて”もらって、あとは自由に放って置いてもらうことを求めているのに対し、奥さんの方は、お母さんさんに何かと「かまって」もらうことを求めているということです。

 

 ダンナさんは自分が望むように、奥さんを自由にさせているのですが、奥さんはそのことがダンナさんに「かまって」もらえていないということで不満を感じて、段々と不和が深まってしまうようです。

 

 そういって夫婦仲が悪くなっていくと子供のメンタルにもかなり深刻な悪影響を及ぼしてしまうということで、カンタンに離婚という決断は避けたいところなんですが、やはりそのためには徐々にコミュニケーションを回復していく必要があるということで、やはりそのためには相手の思うところを「尊重」するということのようです。

 

 ワタクシも知らぬ間に奥さまの地雷を踏んでいないかということで、ドキドキしながらこの本を読んでいたのですが、やはりそういう風な振り返りと時折しなくてはいけないということですかね…

同調圧力/鴻上尚史、佐藤直樹

 

 

 劇作家の鴻上尚史さんが、「世間学」の研究を専門とされる方と、日本におけるコロナ禍の影響を、「世間」による「同調圧力」という観点から語られた対談をまとめた本です。

 

 日本におけるコロナ禍の被害は、ニュージーランドや台湾などと比較するとかなり多く見えますが、欧米と比較すると相当少なくなっていて、その要因として衛生観念や民度など様々な根拠が挙げられていますが、この本では、「世間」の「相互監視」による抑制が働いたのではないかとおっしゃいます。

 

 確かに、マスクをしない人を糾弾する「マスク警察」やパチンコ店の営業自粛要請破りを糾弾する「自粛警察」など、SNSなどを中心として、自粛を強要する「同調圧力」が強く働いたということです。

 

 そういう圧力が働いたのは、欧米では個人個人が「社会」と直接つながっているのに対し、日本人の多くは地域コミュニティなどの「世間」を介して初めて「社会」とつながっているため、より狭い「世間」の空気みたいなものに支配されることが多く、暗黙のコンセンサスが暴走してしまうリスクがあるということで、今回のコロナ禍ではそういう「世間」の悪弊が強く出てしまったようです。

 

 「世間」という、ある程度限られたコミュニティの安寧を守ることが第一となり、誰もがマスクをすることを”強要”され、コロナに感染してしまったら「世間」に迷惑をかけたということで”糾弾”されるということで、「世間」の「同調圧力」が暴走したという風に説明できるようです。

 

 おそらく昨今、緊急事態宣言発令による人流抑制の取組が上手く行かないのは、最早「世間」の感覚が相互に人流を抑制しようという方向に向いていないからだと説明できるように思えます。

 

 東日本大震災の時には、相互に支援をしたり、火事場泥棒を抑止するなど、「世間」の良い面が強調されましたが、今回のコロナ禍では、多少感染拡大の抑制に資した部分はあるにせよ、ギスギスした空気を生んでしまったことは否定できず、社会の分断を進めてしまったようにも感じます。

 

 さらにはそういう相互監視が経済的な発展を阻害しているんじゃないかという側面もあり、そういう閉鎖的な状況というのが、今回のコロナ禍をキッカケに緩和されればいいのに、と強く感じます…

続・孤独のすすめ/五木寛之

 

 

 話題をまいた『孤独のすすめ』に続編があることを知って手に取ってみました。

 

 『孤独のすすめ』が出版されたのが2017年ということで、東日本大震災を受けて「絆」がやたらともてはやされた反動なのか、その頃「孤独」を見直す動きがあったと記憶しており、下重暁子さんの『極上の孤独』などのヒット作もありました。

 

 やはり続編が企画されるだけの反響があったということなのですが、「孤独」ということについて「孤立」みたいな受け止めをする向きもあったようなのですが、そういう”誤読”を正す意味合いもあったようです。

 

 この本では”孤独の大家”である下重暁子さんとの対談が巻末に収められているのも興味を惹かれるところです。

 

 正編ではあまりなかったのですが、こちらでは仏教的な考え方も盛り込まれていて、解脱のために家族から離れたブッダや、隠遁を求めた西行法師のことを取り上げられていて、自分を深めるといった意味あいについて指摘されています。

 

 さすがにブッダ西行法師の例は極端だとしても、「孤独」といっても人を避けるという意味合いではなく、最低限の交流はありつつも、それに引きずられないという意味で「和して同ぜず」とおっしゃられているところに、深くナットクできた次第です。

 

 また、昔を懐かしむことについて、割とネガティブな意見が蔓延していますが、これまでの自分の来し方を振り返って反芻することについて、かなり意義があることだとおっしゃられているのも印象的です。

 

 下重さんとの対談でもそういった趣旨のことに触れられていて、「孤独」というのが「自らを慈しむ」とおっしゃられているのは、人付き合いに疲弊している人にとってはしみじみと染みてくるような気がするのですが…

 

最後の講義完全版 適応力 新時代を生き抜く術/出口治明

 

 

最後の講義 完全版 適応力 新時代を生き抜く術

最後の講義 完全版 適応力 新時代を生き抜く術

  • 作者:出口治明
  • 発売日: 2021/03/01
  • メディア: 単行本
 

 

 NHKのTV番組『最後の講義』で出口さんがされた講義の内容を、番組内ではカットされた部分も含めて収録された本だということです。

 

 『最後の講義』という番組は、「知の最前線に立つスペシャリストたちが「もし今日が最後だとしたら何を語るか」という問いのもと、学生たちに対して講義を行い、それを番組にしたものです。」ということだそうで、実際に番組も見たのですが、講義の内容自体は素晴らしいモノだったのですが、やたらと講義をブツ切りにして、学生のコメントなんかをフィーチャーしてたんで、ビミョーにイラッとしていたので、完全版の出版はうれしいです。

 

 おっしゃっていることは、現在の日本の閉塞感やそれを招いた原因、そんな中で若い人たちが如何に生き抜いていくのかということを、「タテ・ヨコ・算数」「人・本・旅」など、出口さんの読者にはおなじみのフレーズを交えて語られています。

 

 ただ、「タテ(時間軸:歴史)・ヨコ(空間軸:世界)・算数」ということについて、「夫婦別姓」というティピカルなテーマを元に話されていて、イメージがしやすかったのと、「算数」という部分について、「数字・ファクト・ロジック」をいう、これまたおなじみの出口理論を元に語られていて、しかもそれを身に付けるための「人・本・旅」ということで、出口理論がかなり立体的に語られていて、かなり聴いている側からしてもスッと腑に落ちやすい語り方で、著者としてもかなり分かり易い本を書かれていると思っていたのですが、語り手としても相当優れていると感じました。

 

 特に若い人向けということなので、モノの見方を習得するための「人・本・旅」についてかなり具体的に語られているのが印象的で、よくおっしゃっている「本」の部分で古典を読むことをススメらているのはおなじみなのですが、「人」の部分で、ご自身が誘いを断らないことをモットーにしていることを引き合いに出されて、オープンな態度で人と接することで、幅広く見聞を得ることを勧められています。

 

 前半の講義部分もかなり印象深いモノなのですが、紙幅の半分以上を占める質疑応答がさらに凄みを見せています。

 

 印象的だったのが、決断に迷ったときにどうするか、という質問に対して、あみだくじを勧められているのに驚かされますが、それだけ決断に悩むようなことだったら、どっちに決めてもそんなに差はないでしょ!?とおっしゃるのですが、そういうことができるのは、大体の条件は想定するための膨大な知識や判断力をお持ちの出口さんならではでしょ!?とツッコミたくなりましたが…

 

 まあ、何にせよ、これまでも出口さんの圧倒的な教養に圧倒されてきましたが、さらなる高みを見せつけられたような気がさせられるモノでした。

池上彰のよくわかる世界の宗教 仏教

 

池上彰のよくわかる世界の宗教 仏教

池上彰のよくわかる世界の宗教 仏教

  • 作者:池上 彰
  • 発売日: 2016/11/30
  • メディア: 単行本
 

 

 マイブームの仏教関連の本ですが、もうちょっと端的にどういうモノなのかを知りたいということで、そういうのなら子供向けだろうということで、しかもあの池上さんが手掛けられたモノだということで、ちょっと借りるのが恥ずかしくはあったのですが、手に取ってみました。

 

 言ってみれば、社会の資料集みたいな感じの装丁で、中学生対象にしては、仏教の考え方の結構込み入った部分まで紹介されているので、ちょっと難しいんじゃないと思う位で、それだけにオトナの鑑賞にも耐えるモノとなっています。

 

 お釈迦様が仏教を開かれた経緯から基本的な仏教の考え方、バラモン教ヒンドゥー教などの周辺の宗教との関わり、その後の広がりといった基本的な情報を分かり易く紹介されているのはさすが池上さんです。

 

 日本での展開については、神道との関わりについて触れられているだけで、日本に仏教が入ってからの内容がほとんどないのが、ちょっと残念ではありますが、その辺りは歴史で習うはずだということなんですかね!?

 

 この本はシリーズものの1冊だということで、キリスト教編やイスラム教編もあるようなので、いずれ手に取ってみようかと思います。

日本人改造論/ビートたけし

 

 

 ビートたけしさんが1999年に出版された本を再編集して2014年に再出版された本だということです。

 

 「日本人改造論」という大仰なタイトルですが、ちょっと情けない感じの日本のおとーさん方について、ご自身の自虐ネタも交えて語られています。

 

 約20年前ということで、その頃のおとーさん方も今と比べるともうちょっとイキってたというか、肩ひじ張った部分があったようなあったような気がするんですが、ミョーに情けないおとーさん方をこれでもか!?という位紹介されています。

 

 サブタイトルに「父親は自分のために生きろ」とありますが、むしろこの20年で、どちらかというと真逆の方向に進んでいる部分もあるんじゃないかと思いますし、もっと内向きになっているはずで、ホントに大丈夫なのかなぁ…と心配になります。

 

 そういう情けないネタだけにたけしさんの自虐ネタ全開で、それだけにくだらなさが出過ぎて、いつもならふざけたなかに本質的な鋭い指摘が印象的なたけしさんなのですが、くだらないまま終わっている気もしますが、まあ、面白いからいいか!?という感じでした。

こんな言葉で叱られたい/清武英利

 

こんな言葉で叱られたい (文春新書)

こんな言葉で叱られたい (文春新書)

  • 作者:清武 英利
  • 発売日: 2010/09/16
  • メディア: 新書
 

 

 読売新聞の記者を経て、読売ジャイアンツの球団代表を務められ、当時FAを中心とした選手編成から転換し、育成中心のチーム編成で一定の成果を収めたモノの、帝王ナベツネにクーデターを企て、鎮圧されて表舞台を去ったことで知られる方の、球団代表時代に雑誌等に寄稿されたモノを集めた著書です。

 

 この本が出版されたのは2010年で、その頃は既に若手を叱って育てるという考え方は時代遅れになりつつあった時期だったようですが、旧世代としては叱られなければ、心底まで理解できないこともあるんじゃないかということで書かれたようです。

 

 この本は主に、野球の指導者から選手に向けられたコトバを集められたモノで、必ずしも叱責ばかりではないのですが、如何にして選手に成功してもらおうかということでココロを尽くされた上でのコトバが集められているように感じます。

 

 そういう指導者のコトバが届くこともあったでしょうし、虚しくなってしまうこともあったでしょうけど、指導者としてはやはり選手に対する思い入れというのが、ベースとなる資質であるようです。

 

 大体プロのコーチが選手を叱ろうとするのは、ある程度行く末に期待を持ってのことが多いでしょうし、その選手が何かを気づいてくれるために、時にはキビシいコトバをかけ、時には突き放し、時には懇願するように訴えるといったことを紹介されています。

 

 まあ、スポーツの指導者だけでなく、あらゆる分野で指導者と言われる人に取って、他者を導く上で、どこかヒントになる問いかけが詰め込まれているようにも思えます。

 

 叱られるというのは、多くの人に取って、必ずしも快いことでないことが多いはずですが、叱ってくれるというのは、ある程度以上に相手に対して思い入れや期待があるからこそであり、単純に表面的に叱られるのがイヤっていうだけで、相手のいうことを拒絶するのはホントにもったいないことだと思えますし、こういうコミュニケーションを今後も大事にしてほしいなと思うのは、やっぱりワタクシが古い人間だからなんでしょうかね…