希望格差社会/山田昌弘

 

 

 「婚活」というコトバを産み出したことでも知られる社会学者の山田先生が、2007年に出版された「格差」に関する本です。

 

 おそらくこの頃はまだ、それほど非正規雇用が今ほどは広まっていなくて、フリーターやニートの増加が社会問題として取り上げられ始めた頃だったと記憶していますが、昨今は改善するどころか、より状況は深刻になっているように見受けられます。

 

 この本は「格差」が生まれてきた経緯と、ホンのちょっとその処方箋を紹介されていますが、はっきり言って「処方箋」の部分は、今の時点から見ると全く機能していないですし、山田先生ご自身もかなり自信なさげに提示されているので、あまり気にしなくてもいいかも知れません。

 

 山田先生はこの「格差」がリスク化と二極化によってもたらされたとおっしゃいますが、そのうち「リスク」に関しては、そもそも近代国家は国民生活のリスクを最小化すべく取り組んできて、とりわけ戦後日本の高度成長期においては、大卒-ホワイトカラーというキャリアパスの広まりによって「一億総中流化」という世界史上稀に見る均質化社会を産み出したのですが、バブルの崩壊を契機に、小泉政権の規制改革によって競争社会が本格化したことにより、イッキに格差の拡大が始まったということです。

 

 高度経済成長期においては、とりあえず勉強をガンバっていい大学に入って、その後いい会社に入れば、リタイアして年金をもらうところまでを含めて(女性だったら、そういうキャリアパスをたどっている人と結婚すれば)、ある程度安心して生涯を過ごすことができたのですが、バブルの崩壊後、終身雇用や年功序列が形骸化した社会では、そういう「リスク」のないキャリアパスが失われてしまい、かつ激しい生存競争が繰り広げられた結果、落ちこぼれて行ってしまう人が生み出されて二極化が進んで行ったということです。

 

 そういう状況になった結果、個人としてはなかなか有効な処方箋を見出すことはできず、政府としてもむしろ真逆の方向である競争を促すような政策に終始することで、この本がしゅっぱされた後も、より「格差」は拡大して行ってしまい、その結果、下層になってしまった人たちにとっては将来の希望を見出すことすら難しい社会になってしまったようです。

 

 モチロン、ある程度の自助努力と言うのは必要不可欠だと思うのですが、実質スタート地点に立つことすらできない状況と言うのは、社会全体の閉塞感にもつながりかねないですし、何とかそういう意味での機会の均等を促すような政策こそが、今後の日本の活力の再生に不可欠だと思うのですが…

坊主失格/小池龍之介

 

 

 仏教の教えをベースにした数々の自己啓発書で知られる小池さんの自伝的な著書です。

 

 「坊主失格」というなかなか衝撃的なタイトルなのですが、冒頭で「こんなサイテーな人間でも多少は変われるのなら、自分も今からでも変われるかもね」と書かれていて、ご自身の体験を通して仏教の救済について語られています。

 

 小池さんは幼少の頃から、かなり自分に愛情を向けられることを強く求める性癖があったようで、それが成長していく過程でも続き、さらにかなり屈折したカタチで表れていたということで、おそらく昨今であれば何らかの精神的な障害と診断されるであろう、なかなか壮絶な状況だったようで、周囲も、ご自身をも深く傷つけていたようです。

 

 結婚~離婚を経たことで、何か根本的に自分を変えなければと思われた小池さんは、僧侶であるお父様に瞑想を勧められて取組んでいるウチに光明を見出したということです。

 

 そんな中で、”悟った”時のことを紹介されているのですが、迷走をされているウチに、自分が傷つけてきた人たちのことが走馬灯のように次から次へと現れた後に、何か憑き物が落ちたような感覚になったということです。

 

 そしてよく知られる「小池龍之介」になられたということなのですが、「こんな私でも」というところが、どこか悪人正機説を思わせるところもあり、仏教の効用の側面が顕著に表れているような気がしました。

食べる投資/満尾正

 

 

 何でもハーバードにすりゃ本が売れると思ってんのか!?というタイトルですが、こちらの本は元々救命救急医をされていた時に、予防医学の重要性に目覚めて、ハーバードに留学し、そんな中でも特に栄養学が果たす役割に気づき、日本初のアンチエイジングを専門とするクリニックを開設された方が語られた、ベストコンディションを作るための「食」に関する本です。

 

 糖質制限を勧めるセンセイ方は割と日本の医学界における栄養学の位置付けの貧困さを指摘されているようですが、アメリカではかなり栄養学が予防医学のキモと位置づけられているようで、健康を作るのはその人が何を食べるかに掛かっているという認識が定着しているようです。

 

 特に日本のサラリーマンたちは、飲んだ後のラーメンなんてことをヘーキでやってしまうワケですが、この本を読んでしまうと、何ということをしていたんだ…と思ってしまうかも知れません。(随分昔はワタクシもやってました…)

 

 個人的にハードルが高いのが、納豆を勧められているところと週3回魚介類を食べようというところですが、あとは糖質制限だったり、ファスティングだったり、それなりに取り入れているところが多かったので少し安心しました。

 

 積極的に摂取すべき食物と共に、摂取を避けるべき食物も紹介されていて、甘味料の入った飲料は止めようとか、トランス脂肪酸を避けようとか、それなりにケアをしている人にとっては答え合わせみたいなことになるのかも知れません。

 

 ただ、こういう食生活の見直しを「投資」と位置付けるのは斬新な気がしますし、読書と並んで、一番コアとなる「投資」なのかも知れません…

格差が遺伝する!/三浦展

 

 

 『下流社会』で知られる三浦さんが、子どもに受け継がれる”格差”について語られた本です。

 

 この本は2007年に出版された本で、当時は今ほど格差の遺伝ということについては語られていなかった気はするのですが、昨今はそういう現象を解消しようとするどころか、教育予算を削減して助長するような動きにすらなっているようなので、より”格差”の固定化が顕著になっているように思えます。

 

 そういう”格差”の遺伝だったり固定化だったりと言う現象は、親の収入の多寡によって受けられる教育が変わってしまうという側面は、なんとなくイメージできるところなのかな、と思いますが、三浦さんは”格差”が遺伝してしまう原因について、これまでの著書と同じようにアンケートによってリサーチをされています。

 

 例えば、収入の高い家庭だと、朝ご飯をちゃんと食べている割合が、収入の低い家庭に比べて高いとか、規律のある生活ができている割合などなど、収入が高い家庭と低い家庭で有意な差がある項目と、それが高い学歴につながる割合と比較して、意外と金銭的な面以外にも”格差”を遺伝させているような事項が多いことを示唆されています。

 

 確かにその日食べていくだけでやっとの追い詰められた状況で、規律がどうのこうの言ってる場合ではない人が少なくないとは思いますが、そこを子どものために踏ん張ることが、”格差”を乗り越えることにつながるかも知れないということで、そういう部分についての啓蒙に是非ともチカラを入れてほしいところですし、そういう”格差”に下側から抜け出すための展望みたいなモノが、もっとリアルに描けるような状況を作ってもらいたいところですが、コロナ禍で逆にそういう傾向が助長されているようにも思えます。

 

 でも、そういうところが国の活力を生むと思うんですけどねぇ…

知識ゼロからのオリンピック観戦入門/生島淳

 

 

 紆余曲折がありながらも、どうやら一年遅れで開催することになりそうな東京オリンピックですが、その観戦ガイドとも言える本です。

 

 この本、本来オリンピックが開催されるはずだった2020年の2月に出版されたということで、おそらく執筆されている時はコロナ禍のことなんてアタマになかったでしょうし、出版された時期もビミョーに他人事だった時期なので、まさかこんなことになっているとは夢にも思わなかったでしょうということで、経済効果ん兆円とかって今となっては悲しくなるようなことだったり、サンドバックになってしまったPVのことなども紹介されていたりして、たった一年半でここまで劇的にコトが変わってしまう状況に、改めてビミョーにショックを受けてしまったりします。

 

 この本は、「知識ゼロ」でもそれなりに感染が楽しめるためのガイドということで、オリンピック全33競技、パラリンピック全22競技をくまなく紹介するということで、陸上競技や水泳などのやたらと種目数の多い競技であっても、さらには競技のメジャー、マイナー関わりなく、1競技当たりMax4ページしか紙幅が無いという、なかなか荒唐無稽な企画に思えますが、そういうチャレンジをされています。

 

 どの競技でも「知識ゼロ」からということなので、サッカーや野球などのメジャーな競技のルール説明とかバカバカしい気もしますが、マイナーな競技の概要説明は非常にありがたく、特に日本人がそれなりに活躍していながらもオリンピックでしか注目されない競技に関する情報は、極めてコンパクトにまとまっていて非常にありがたいところです。

 

 また、意外と馴染みがある思っている競技でも知らないことが多いんだなぁということも多くて、バレーボールのポジションってこういう考え方だったのね!?とか、水泳の中にマラソンスイミングなんて種目があったのね!?とか、かなりいろんな発見があります。

 

 不本意ながら、単純に楽しむにはあまりにも余計な要素が絡み過ぎた東京オリンピックですが、開催されるのであればおとなしくテレビ観戦で応援しましょう!

なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?/中島恵

 

 

 中国ウォッチャーの中島さんによるリアルな中国人の姿を紹介した本なのですが、中島さん自身、双方のメディアで紹介されている双方の国民の姿が、ご自身が直接接している双方の国民のリアルな姿と相当なギャップがあるということで、この本が出版された2015年当時、メディアで紹介されている日本に来る「爆買い」中国人と、反日的な行動をする中国人じゃなくて、日本が大好きな中国人の姿を紹介した本です。

 

 一人当たりのGDPではまだ日本に及ばないものの、全体のGDPでは日本を追い抜いて世界2位の経済大国となった中国なのですが、ごく一部の富裕層を除けば、それなりの経済的な豊かさは感じつつはあるものの、まだまだ日本人の生活水準に追いついているようには思えない人が多いということです。

 

 特に日本を訪問したことがある人に顕著な傾向なようで、日本で体験した日本人の心遣いについて、たとえ中国が順調に経済成長を遂げて行っても、こういうソフト面において日本人には永遠に追いつけない、という中国人が多いということです。

 

 ワタクシ自身が仕事の関連で接したことのある中国人たちも同じようなことを言っていたことを覚えていますが、いつも、リップサービスなんじゃないかとか、随分と日本人は買い被られているもんだなぁ…と思ったもんですが、結構リアルなハナシだったんだと改めてビックリしております。

 

 また、当時の学生の世代だと、日本のアニメなどに傾倒する人も多かったようで、戦争の被害を受けた世代の家族と対立してまでも、日本に留学しようとする姿なども紹介されていたりします。

 

 ただ、この本の著者の中島さんが今年の一月に『現代ビジネス』に寄稿されている『中国の若者は「もう日本製より中国製がいい」、その消費意識に起きているヤバい変化』によると、もっと若い世代の日本離れが始まりつつあるようで、段々と中国もそういう方向に行きつつあるのかな、と思うと少し寂しい気もします。

病とフットボール/高原直泰

 

 

 2000年代に不動のセンターフォワードとして長らく日本代表を支えた高原選手が、2002年日韓W杯直前に患ったエコノミークラス症候群とご自身のキャリアを語られた本です。

 

 タイトルだけ見ると病気との闘いがメインテーマのように見えてしまいますが、そのトピックは1/4位で、その内容自体もかなり興味深いモノなのですが、この本が出版されたのが2007年なので、結局出場はかないませんでしたが2010年の南アW杯を目指している時点で、それまでの選手としてのキャリアについても語られているので、一粒で二度オイシイ内容となっています。(笑)

 

 2002年に高原選手がエコノミークラス症候群を患って、日本代表を離脱した時は、不動のエースだったこともあり衝撃が走りましたし、その当時はご本人も相当な落胆はあったようですが、まだまだ若かったこともあり、それなりに切り替えは早かったようです。

 

 その後、ドイツに移籍して日本代表選に関連して、また飛行機での移動が増え、2004年に病気が再発したということで、それ以降は毎日自分で血液が凝固しにくくなる薬剤を注射されていたそうで、相当ケアには気を遣われていたようです。

 

 また、高原選手は、その後香川選手や長谷部選手を経て、遠藤航選手に至るまで脈々と続く、ブンデスリーガにおける日本人選手の草分け的な存在になるワケですが、日本ではダントツの存在感を示していた高原選手であっても、なかなか成果をあげるのに時間がかかったことを語られていますが、どうしても日本人選手って器用に何でもこなしてしまうから、いろんなポジションをあてがわれてしまい、そのうちに自分の持ち味を見失ってしまうこともあるようで、そういう葛藤を経て、センターフォワードとしての存在感を確立した高原選手の存在感があるからこそ、その後に続く日本人の成功もあったんだろうなぁ、と思います。(同じポジションで、今苦闘している大迫選手にも同じようにもう一花咲かせてほしい所です。)

 

 返す返すも高原選手がピークの状態でW杯で大暴れできなかったのは、その実力を考えると残念でなりませんが、それでも日本のサッカー界に残した足跡は巨大なモノだったんだなぁ、と思い返した次第です。