野村の遺言/野村克也

 

 

 ID野球で一世を風靡し、2020年に亡くなられた名将野村監督によるキャッチャー論です。

 

 冒頭で、ここ最近、キャッチャー出身の監督が減ってきており、野村監督自身が育てた古田選手や、横浜~中日で活躍した谷繫選手など、球界を代表するような名捕手が減ってきていると指摘されていて、こういう傾向が続けば、日本野球の緻密さが失われてしまいかねないと警鐘を鳴らされています。

 

 元々野村監督の現役時代当初は、キャッチャーのリードと言っても経験則によるカンに基づいたモノだったということで、配球の問題で痛打されたとしょっちゅう怒られたようですが、だったらどんな球が良かったんですか?と尋ねても、「自分で考えろ!」とさらに叱られて、結局糾弾する側にも確たる回答はなかったようです。

 

 そんな中で野村さん自身が、カウントごとにこのバッターはこうなれば打ち取れるということを過去のデータを調べ上げて配球を考えるようにしたことが、のちにご自身がヤクルトの監督時代にID(Important Dataの略なんだそうです…)野球とのキャッチフレーズをつけて一世を風靡するデータ重視の采配の礎だったようで、日本のプロ野球におけるキャッチャーのリードの考え方を一から作り上げたのが野村さんだったようです。

 

 ヤクルトの監督時代のオリックスとの日本シリーズにおけるイチロー対策などヒリヒリするような配球の妙を実戦での事例を踏まえて紹介されているのも、実際の場面を思い起こして、かなり興奮します。

 

 今後もこういった頭脳戦を交えたエキサイティングな対戦が続くように、MLBの皆さんは「野村の遺言」を胸に刻んで取り組んでもらいたいところです。

 

逆転の仕事論/堀江貴文

 

 

 この本は2015年に出版された、堀江さんが選んだ8人の「イノベーター」の経験を通して、来るべき仕事論を語られます。

 

 8人の「イノベーター」というのが、YouTuberのHIKAKINさんだったり、書家の武田双雲さんだったり、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんといった豪華版で、「あえて、レールから外れる。」仕事術を紹介されています。

 

 冒頭で堀江さんは、従来多くの人にとって仕事は基本的に「引き受ける」モノだったんじゃないか!?という提起をされていて、それはそれで意義があるんだけど、ホントにそれが充実したものになっているのか!?といういつものように凡人たちにはキビシ過ぎるアジを飛ばします。

 

 そんな中で8人の「イノベーター」たちが、「引き受ける」仕事を離れて、自分なりの仕事を始めて、充実した「仕事」をされる様子を紹介されていて、多くの凡人にとってかなりマバゆく見えるワケですが、じゃあそういう充実した状況を継続できるのですか!?というギモンを差し挟みたくなっても、きっと堀江さんは、そんなのは自分の責任だろ!?と冷たく言い放つに違いなく、そういうところを考えると今まで通り仕事を「引き受ける」ことを続けざるを得ないということになります。

 

 堀江さんのおっしゃることはマバゆく見えますが、ひょっとすると多くの人にとっては、ツラくなるだけなのかも知れません…

なぜ日本人は怒りやすくなったのか?/安藤俊介

 

 

 アンガーマネジメントという考え方を日本に紹介され、『「怒り」のマネジメント』など多くの著書でアンガーマネジメントを啓蒙されてこられた日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤さんが、コロナ禍を経ての日本人のアンガーマネジメントの在り方について語られた本です。

 

 コロナ禍において、マスク警察や自粛警察が跋扈したことでもわかるように、最近日本人がどんどんイライラしているように見えますが、そういう減少ってアンガーマネジメントの観点からすると、かなり理解できる状況のようで、そういう状況についての理解と、如何にしてそういう状況を克服するかということについてもこの本で紹介されいます。

 

 今までこのブログで紹介してきた安藤さんのアンガーマネジメントに関する著書は、どちらかというと発生した怒りに対して、あまり感情的にならずに、どうやってうまく収めるかということに主眼を置いていたように思えるのですが、この本では根源的に怒りが発生する原因をできるだけ少なくするようなアプローチについて触れられているように思います。

 

 その根源的な怒りの根源のひとつとして安藤さんは、自己肯定感の低さということを挙げられており、特に日本人は自己肯定感の低い人が多いことでも知られることが、昨今の日本で蔓延するイライラ感の原因の一つだと指摘されています。

 

 自己肯定感が低いと、ついつい自分のことよりも周囲に見えていることにフォーカスしてしまいがちで、しかも周囲の状況を否定的に捉える傾向が強くなってしまった結果、不満感が暴発して怒りをまき散らすことにつながるということです。

 

 そういう自己肯定感の低さについて、『ビリギャル』の坪田センセイが『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』で述べられていたように、親からの”しつけの毒”が原因になりやすいということなのですが、そういう原因志向ではなくて、未来志向で如何にして自己肯定感を高めていくかという姿勢で取り組むことが肝要で、ひとつひとつ成功体験を重ねることで”しつけの毒”を抜いていくしかないようです。

 

 こういうところを見ても、日本の閉塞感って、かなり根深いモノがありそうで、一刻も早くそういう認識の下で、可能性に満ちた日本を実現したいところです。

東大主席弁護士が実践!誰でもできる〈完全独学〉勉強術/山口真由

 

 

 東大を首席で卒業して財務省に入省し、退官後ハーバード大学を卒業された弁護士で、ゴージャスな容貌の美女というパーフェクトなプロファイルで知られ、メディアでのコメンテーターとして活躍されている山口真由さんがご自身の勉強法を紹介した本です。

 

 あまりに完璧な経歴なので鼻持ちならない想いをされる方も少なからずおられるんじゃないかとは思うのですが、ご本人は周囲にいた秀才から比べると才能では劣ると思われていたようで、しかも勉強こそがご自身の存立理由だと思われていたということもあって、華麗なルックスのイメージからするとかなり意外ですが、相当泥臭い努力を積み重ねてこられたということで、その中で編み出されたのが「教科書7回読み勉強法」だということです。

 

 タイトルには「誰でもできる」とありますが、2つの意味で山口さんがスゴいなぁ、と思うのが、まず7回教科書を読み通せる人が少ないだろうなぁ、ということ…というのも、それだけのす根気が続く人がまずいないんじゃないか!?ということと、何回か読んでるとわかったような気になって途中で放り出してしまうんじゃないかということなのですが、あれだけの才能がありながらそれをやり通すのは稀有だということと、多くの人が参考書とかいろんなモノに手を出したくなるところを、教科書だけにフォーカスし続けられるというところが、「誰でもできる」ことではないんじゃないかと強く思います。

 

 あまりに完璧な存在で正直ワタクシ自身も鼻持ちならないイメージを抱いていたということもありますし、”知の怪人”佐藤優さんが知識詰め込み的なアプローチに苦言を呈していたこともあって、あまりこの方にいい印象が無かったのですが、これだけの泥臭い取組ができることには、正直諸手を上げて賞賛するしかありません。

 

 この本を読んで「教科書7回読み」に取組まれる人はおられると思うのですが、相当な覚悟を以って取り組まないと、途中で放り出してしまうことになってしまいかねないので、腹を据えて取り組んで欲しいところです。

 

先生!/池上彰編

 

 

 池上彰さんが「先生」というコトバからイメージされることを思うがままに綴って欲しいということで、爆笑問題の太田さんや、教師経験もある乙武さん、痛くない注射針で知られる岡野工業岡野雅行さん、カンボジアで起業された『裸でも生きる』の著者の山口絵理子さん、パックンなど名だたる執筆陣のエッセイを集めた本です。

 

 「先生」というと教師だけでなく、お医者さんや議員さんもそう呼びかけられるワケですが、一部お医者さんの執筆もありますが、概ね教育者としての「先生」がテーマになっています。

 

 生徒としての立場からみた先生論もありますし、教師をされている方がご自身を振り返ってのモノもありますが、実際に教えている科目というよりも、何気ない雑談や会話の中で先生がふと口にした何気ない一言が聞いている生徒の人生のターニングポイントになることも多々あるということで、先生としてもやりがいがあると共に責任が重いということを感じさせられます。

 

 過度にそういう責任感を感じすぎるのもよくないのかも知れませんが、少なくともそういう可能性があるということを、どこかアタマの片隅において、それなりの生徒たちへの想いがないといけないようで、今となってはそこまでクローズアップされることは少ないですが、やはり先生という仕事はそれだけに尊いものなんですねぇ…

日本の聖域 ザ・コロナ/「選択」編集部

 

 

 書店では販売せず宅配の年間購読のみという形態での出版を続ける情報誌『選択』のコロナ関連の記事を中心にまとめられたモノです。

 

 この雑誌、かなり硬派のようで権力への忖度にまみれた大手メディアでは取り扱わない権力の腐敗などに鋭く切り込むといった感じで、この本ではコロナ対応における政府や厚労省の失策や医療関連組織の利権優先の腐敗した体質を紹介する記事を中心に、2019年2月号~2021年6月号に掲載された記事から厳選されたモノをまとめられているということです。

 

 先頃凶弾に倒れた安倍元首相の”アベノマスク”に象徴されたように、政府のコロナ対策は迷走を極めたワケですが、そもそも初動から組織の論理で感染症のシロウトに近い人材にかじ取りを任せ、当然のごとく感染拡大防止に失敗しても誰もロクに責任は取らず、ワクチン利権でカネのニオイがし始めるとワラワラと利権に群がるといった具合で、人の命よりも組織の保全やカネや利権の方が優先される状況をあらわにされておられて、コロナの拡大は人災の要素が色濃くあったことを指摘されています。

 

 コロナに限らず、利権や組織の保全、失敗してもだれも責任を取らない体制というのは変わらぬ日本の病巣のようで、そりゃ社会も停滞するよなぁ、と思うのですが、まだこういうメディアの存在が許されているだけでもマシなのかも知れません…

日本と中国、もし戦わば/樋口譲次

 

 

 陸上自衛隊で幹部候補の教育も手掛けられていた方が、中国の日本侵攻の可能性とそのシミュレーションについて紹介された本です。

 

 この本は2017年の出版ということで、トランプ政権誕生間もない頃でマティス国防長官を始めとしてズラリと軍出身者を政権の中枢に配置した、かなり好戦的に見える布陣で、中国を増長させてしまったオバマ政権における”失敗”を踏まえて、かなり中国に対して強硬な態度で対峙しており、米中衝突が現実的な可能性として取りざたされ始めていた時期だということもあり、かなり具体的に衝突のシナリオも紹介されています。

 

 そんな中で尖閣諸島へのちょっかいも激化していたワケですが、この本の中でアメリカの外交専門誌『Foreign Policy』誌に掲載された中国による尖閣諸島占領のシミュレーションが紹介されていて、わずか5日で占領を完了させるという驚愕の内容を提示されています。

 

 尖閣諸島なんてちっぽけな無人島にそこまで執着するのか!?というギモンを抱く向きも少なくないとは思いますが、中国というのは国力の状況に応じて国土の拡大縮小を繰り返してきており、習近平の下、国力の充実した昨今、国土の拡大欲求が膨らんでおり、しかもアメリカとの対抗上、是非とも手にしたい台湾・沖縄占領の上で、かなり重要なオペレーションとなるようです。

 

 沖縄占領なんて、多くの日本人は絵空事だと思うかもしれませんが、サラミスライス戦略により、なし崩し的に南シナ海の広大な領域を占拠した実績を思うと、現在の尖閣諸島におけるオペレーションをもっと大きな意図の一環だと考えた方がよさそうです。

 

 しかも、ロシアのウクライナ侵攻を中国がどうとらえるかによっては、台湾~沖縄侵攻を現実的なシナリオとすることも考えられ、そういう危機感をアタマに置いた上での国家運営を考えていく必要がありそうです。