「のび太」という生きかた/横山泰行

 

 

 『ドラえもん』の主要キャラでダメキャラとされる「のび太」を範に取った成功法則本というなかなか斬新な切り口の自己啓発本です!(笑)

 

 作者の横山さんは教育学を専門にされているのですが『ドラえもん』の描写を詳細に分析することによって教訓を見出す「ドラえもん学」を提唱されていて、この本もその研究の一環だということです。

 

 のび太はダメキャラとして描かれているモノの、ドラえもんもサポートを得ながら結局はヒロインであるしずかちゃんとの結婚にこぎつけるということで「成功者」だとされているのですが、結局しずかちゃんに認められるに至った要素について分析されていて、コンプレックスを感じられている人であっても、「成功」につながる行動を見出せるんじゃないかということで、かなり細かいことを踏まえて「教訓」を抽出されています。

 

 ドラえもんに助けられてばかりというイメージの強いのび太ですが、意外とチャレンジ精神にあふれているということで、ひみつの道具という背中を押すキッカケというモノはありながらも、まあまあハードに見えるチャレンジをしているということもあって、ドラえもんにいろいろと泣きを入れながらも、頑張っていることを再認識させられます。

 

 また何よりもしずかちゃんがのび太と結婚する決め手となったとされている「思いやり」について強調されており、イジられたりといった関係性はありながらも、それでもよい関係を保っているということがいずれ成果につながるんじゃないかということで、なかなか懐かしくも興味深く読めました。

日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ/安倍晋三、百田尚樹

 

 

 先頃、参院選の応援演説中に大和西大寺駅のロータリーで銃撃を受け急死した安倍元首相が、2012年にふたたび首相に返り咲いた当初の百田尚樹氏との対談を中心としてまとめられた安倍氏の期待論的な内容の本となっています。

 

 元々は、この本にも納められている百田氏の民主党政権のダメっぷりに業を煮やして、雑誌『Will』に寄稿された安倍氏復活への期待論に感激した安倍氏が百田氏にお礼の連絡をしたことから対談が実現したということですが、元々、右寄りの論客と見做されることの多い百田氏と、右翼的なスタンスで知られる安倍氏の根っこで共通する部分があるということもあって、かなり盛り上がった様子が伺えます。

 

 特に、民主党政権の外交の破壊的な失策もあって、アメリカにすんでのところで見放されるところだったのを安倍氏が立て直し、中国や韓国・北朝鮮にナメられてヤラレ放題だったところのテコ入れをしたところなどは、百田氏にとっては快哉を叫ぶべきものだったでしょう。

 

 ただ、当初期待されたアベノミクス民主党政権の余りのヒドさから、あれよりはマシだったけど…という程度にしか成果が出ず、結局は諸外国と比較して、収入の差が拡大してしまうという体たらくで、外交ではそれなりの存在感を回復したモノの、それよりも個人的には安倍氏の尊大さに起因する忖度が蔓延する窮屈な世の中にしてしまったという印象ばかりが残った気がします。

 

 この本に収録された対談の頃は第一次政権の失敗への反省もあって、安倍氏自身もかなり謙虚だったということもあり、後に政権の私物化が取り沙汰されるような傲慢さとは無縁で、なかなかそういうワケには行かないんでしょうけど、このままの低姿勢で、少なくとも外交面であれだけの業績を残していれば、それこそ憲政史上もっとも偉大な政治家と称されたかもしれません。

 

地球、この複雑なる惑星に暮らすこと/養老孟司、ヤマザキマリ

 

 

 養老先生とヤマザキマリさんの対談ってことですが、どんなモノになるんだろう…とちょっと想像がつかなかったのですが、とりあえず興味をソソられるので手に取ってみました。

 

 この本は、ヤマザキさんが養老先生の箱根の別邸もしくは鎌倉のご自宅に訪問して、特にトピックの設定をしないカタチでの対談だということで、2018年頃からコロナ以降まで割と長いスパンに渡って、時にはヤマザキさんのご子息のデルスくんも交えてのモノが収められています。

 

 実はこのお二方の共通項として昆虫というキーワードがあって、最初の2章は延々昆虫に関する内容が大半を占めていて、あまり昆虫が得意ではないワタクシとしてはどうなることやら…と思いながら読み進めていたのですが、次第に昆虫から養老先生お得意の死生観に関する内容、また養老先生ご自身がかなり海外に出かけられていることもあって、ヤマザキさんのルーツとも言えるイタリアのトピックや、世界各国の話題なども出て、ちょっとホッとした次第です。

 

 また、お二方の共通項として、割と早めにお父さまを無くされているということと、かなり自宅が人の出入りの激しい環境にあったということで、そういう事象が人格の形成に及ぼした影響について語りあわれている部分もあって興味がそそられます。

 

 それにしても感嘆すべきはヤマザキさんの博識ぶりであり、当代を代表する知性である養老先生を向こうに回しても、遜色なないどころか、それぞれの守備範囲でより高みに登ろうとしている様子が伺えて、なかなかに知的興奮をそそられます。

 

 お二方ともそれなりに壮絶な環境をくぐられてきたからこその教養だという側面があるので、マネすることはなまなかではできないことだとは思いますが、これ位のレベルで議論ができるといいなぁ…という気がします。

どんな人でも頭が良くなる世界に一つだけの勉強法/坪田信貴

 

 

 『ビリギャル』で知られる坪田センセイが、ご自身が主宰する坪田宿でも実際に指導されている勉強法を紹介した本です。

 

 坪田センセイは、塾生が入塾される時に「9タイプ診断テスト」という性格分類のテストを受けさせて、それぞれの塾生に最もフィットすると思われる勉強法で指導されているということで、「子別指導」をモットーとする坪田センセイの面目躍如といったところですが、やはり勉強法も自分の性格に合ったメソッドを取り入れることで、習得の効率も明らかにわかってくるようです。

 

 この本で紹介されている「9タイプ診断テスト」は簡易版だということなので、詳細の分類法が紹介されている『人間は9タイプ 子どもとあなたの伸ばし方説明書』も近いうちに手に取ってみたいと思いますが、ちなみにワタクシ自身は「統率者」タイプなんだそうで、自分がナットクしなければ上司や教師にも食って掛かるということで、勉強会の元締めになることをススメられていて、ちょっと???という気もしましたが、そういうことのようです。

 

 ただ、必ずしもそういうタイポロジーが進める方法論を妄信する必要もモチロンなくて、PDCAを精緻に回して、3日~1週間のスパンである方法論を試してみて、どういうところに効果があって、どういうところは思ったほど成果が出なかったということをある程度詳細に検証をした上で、絶えず微修正をして行くことで自分にピッタリの方法論を見つけることができるということです。

 

 さらに、一旦ピッタリ来たと思った方法論も、科目や単元によって状況が異なる場合もアリ、不断の見直しが必要だということです。

 

 まあ、こういうのってかなり実践的なビジネスの遂行課程(まぁ、ここまで精緻に実行している現場もほとんどないでしょうけど…)そのものであり、それなりの成果を求めるのであれば、これくらいのことをやらないといけないということなんでしょうねぇ…

子どもたちの未来を考えてみた/乙武洋匡

 

 

 

 

 昨日に引き続き乙武さんの著書です。

 

 先ごろの参議院選挙で、紆余曲折を経ながら国政に立候補したモノの、残念ながら当選はならなかった乙武氏ですが、この本が出版された2014年当初も再三政界進出が取り沙汰されながら、2016年の文春砲で断念をしたという経緯があるモノの、こういう本を出されてなかなか意欲的だったことが伺えます。

 

 国家の未来像を描く中で、ご自身が注力してきた教育、福祉、スポーツにフォーカスして語られていて、後半にはそれぞれの分野で目覚ましい実績を残されている国の駐日大使と対談して、未来のあるべき姿を模索するという立体的な構成となっており、読みごたえがあります。

 

 まず教育においては、よく堀江貴文さんや出口治明さんがおっしゃっている、正確に求められている結果を出すということが求められた従来型の教育について、ご自身が教員をされている時のご経験で、とかく横並びであることを求められたということですが、個性を伸ばすといいながら他人と異なることをすることをキビシく制限するという矛盾を指摘されていて、今後は個人の違いに応じたきめ細やかな教育を求められており、教育への財政支出の拡大を求められています。

 

 福祉においては、ご自身が身体的なハンディがあることあって、福祉を受ける側からの視点ということを中心に語られていて、社会インフラのバリアフリー化が遅々として進まない状況ということがありますが、そのバックグラウンドとして北欧の福祉先進国が障害を意識しなくていいような社会環境を作られているようで、求められればサポートはしてもらえるのでしょうが、普段はそういうサポートが無くても概ねの月道ができるようにすることを求められています。

 

 また、福祉を受ける側が受けてばかりいるのではなくて、与える側に回る機会を積極的に増やしていくことで、福祉を受ける側の自立を促すとともに、それ以外の人たちの理解を促すことにつながるのではないかという提案をされています。

 

 残念ながら今回は落選となった乙武さんですが、れいわ新選組あたりと組んで、こういった視点での施策に具体的に取組んでもらいたい気がします。

大人になるための社会科入門/乙武洋匡

 

 

 

 『五体不満足』の乙武洋匡さんが小学校のセンセイをされていた時に出版された、活きた”社会科”について取り上げた著書です。

 

 ”社会科”と言っても、学校で教えられているような内容とは異なり、環境やお金といった社会科の内容っぽいモノを含め、性同一性障害やオタクといった、直接科目の社会科とはリンクし無さそうなモノも含めて、この本の元となったコラムが連載されていた2005~2007年当時に我々を取り巻く社会的な現象について乙武さん自身の考えを述べられると共に、そのトピックの有識者とされる方への取材で構成されています。

 

 先日紹介した『嫌いな教科を好きになる方法教えてください!』で、自分にとってリアリティが希薄だから、あまりその教科に関心が持てなくてキライになってしまうんじゃないかということを指摘しましたが、そういう意味でこの本で取り上げられているなか自分の関心のあることから読んで行って、社会への関心を深めていくことが社会科への関心にもつながるじゃないか、ということを乙武さんも示唆されているような気がしますし、確かに歴史や地理などの知識や、公民や政経などのように社会的な制度についての知識を身につけるのもそれなりに意義があることだとは思うのですが、そういうことを押し付けることでキライになられては元も子もない気もするので、乙武さんが提唱されるような身近なトピックから徐々に社会への関心を深めていくアプローチというのは、かなり意義があることなんじゃないかと個人的には思います。

 

 特に社会科は女の子でニガテにすることが多いということで、自身を守ることにつながるような社会制度を教育することも考えてみてはどうなのかな!?とこの本を読んで感じます。

朝鮮半島という災厄/ケント・ギルバート、遠藤誉、高永喆ほか

 

 

 トランプ大統領在任時で、文在寅大統領就任直後という時期だった2017年に出版された朝鮮半島情勢に関する本です。

 

 その後、文在寅大統領が積極的に北朝鮮との融和を図り、トランプ大統領金正恩の会談が行われるなど、北朝鮮との接近が顕著になりつつある時期でしたが、そういう状況について、韓国、北朝鮮の情勢のみならず、朝鮮半島に大きな影響を及ぼす中国やロシアからの観点、北朝鮮の軍事的な観点も含めて多角的に捉えた興味深い内容となっています。

 

 しかも執筆陣が、あからさまな嫌韓本のライターが避けられていて(ケント・ギルバート氏が該当するといえるかもしれませんが…)、韓国情勢について”知の怪人”佐藤優さんとの対談本もある高永喆、中国情勢に造詣の深い遠藤誉さん、ウクライナ侵攻時にロシアから出禁を食らったことでも知られる中村逸郎さん、朝鮮半島情勢のトピックでメディアにもよく登場する辺真一さんなど豪華版です。

 

 驚いたのが中国との関係性で、中国側からのお目付け役的な位置づけもあった重鎮張成沢の粛清もあって習近平自身がかなり金正恩に不信感を抱いていて、金正男金正男の長男である金ハンソルを保護しているのは中国だということで、実は北朝鮮の後ろ盾となっているのは今や中国よりもロシアだということで、中国は金正恩を持て余しているということです。

 

 元々歴史的に、中国の政権は決して朝鮮半島を制圧しようとしなかったのが、歴代の政権が朝鮮半島の国家を支配するのはかなり厄介で、実際に支配した政権がほどなく崩壊の憂き目にあっているという反省を受けて、唐代以降は支配はせずに従属させていたという知恵が働いていたのに対し、日本は大陸に出る唯一の窓口という意識があったのか、朝鮮半島を制圧してしまったが故に、末代に渡る厄介を抱えてしまったという指摘が興味深いところです。

 

 国というのは引っ越しができないだけに、もっと利口に立ち回らないと手痛いしっぺ返しを食らうということを我々はキモに銘じておくべきだということがよく理解できるモノでした。