老害の壁/和田秀樹

 

 

 かつては『会社にいながら年収3000万を実現する』などビジネスパーソン向けの自己啓発書で一世を風靡した時期もありましたが、最近は『80歳の壁』の大ヒットもあってか、高齢者向けの著書を驚異的な頻度で出版されており、すっかりターゲットを高齢者にシフトしたようです。

 

 この本の内容もその姿勢が色濃く表れていて、冒頭の章で昨今「老害」が取りざたされるのは「同調圧力」だとされていて、マスコミが高齢者の運転免許返上を促すように高齢者の引き起こす自動車事故を繰り返す風潮を激しく非難されています。

 

 その主張の中では、10~20歳代より85歳の方の事故件数が少なく、多くの高齢者は慎重に運転する傾向が強いはずだとおっしゃられていて、安全に運転ができるのであれば、高齢者の高齢維持の観点からは積極的に運転すべきだとおっしゃっています。

 

 その論の正否については敢えてここでは論じませんが、コロナ禍を契機に外出の頻度が減った高齢者も少なからずおられるようですが、そのことがいわゆるフレイルという、徐々に体力が衰えて老化を加速させる状況になっているということで、過度に感染を恐れることによって、却って健康上のリスクが増していることを指摘されていて、しっかりカラダを動かして、しっかり食べるという生活習慣を励行することが老化を遅らせることを啓蒙されています。

 

 また、和田さんの高齢者向けの著書で繰り返しおっしゃられているように、やたらと健康診断の数値を気にするよりも、機嫌よく過ごすことにフォーカスした方が、結局は健康寿命を延ばせることが多いことを指摘されており、多少太ってるくらいの方が健康だということをこの本でも強調されています。

 

 そんな中で、シルバー民主主義と言われますが、実はあまり日本社会は高齢者にやさしくないことを指摘されていて、社会インフラが高齢者にとって使いやすいモノとなっていないことが多いということや、高齢者が使いやすい製品があまり多くないことを指摘されています。

 

 和田さん自身の読者としてメインターゲットであろう高齢者に迎合するようなところもうかがえて、ちょっと極端な論調も否めませんが、やはりある程度高齢者が安心して生活できるような状況ができないと人口減少が顕著な中、若い世代にも弊害が及びかねないことは確かで、そういう意味でも老化を防止するようなこういう啓蒙は必要なのかもしれません。