生物はなぜ死ぬのか/小林武彦

 

 

 『Wedge』かなにかで紹介していたような気がするのですが、理系関係の図書をできるだけ読もうとしているということで手に取ったのですが、結論から言うとこれが大当たりでした!

 

 「死」を生物学的な観点から語るということで、単なる生物個体の「死」だけではなく「種」の絶滅など進化論的なことも含めつつ、当然人間の「死」についても言及されていて、結構専門的なことにまで踏み込まれているような気はするのですが、深淵かつナットク感の高い、非理系であっても理解しやすいモノとなっています。

 

 この本では地球外生物の可能性についても触れられてはいるのですが、一旦地球に限った話で言うと、生物が置かれた環境に応じて、適応できないモノは淘汰され、またある生物は徐々に環境に適応できるように進化しつつ生きてきたということで、生物が生きてきた歴史というのは、そのまま進化の歴史ということで、「死」というのは生物の進化を促すという側面があり、「死」があるからこそ生物が進化してきたということです。

 

 人間もそのうちの一つの種族であり、様々な適応を経ての現在の隆盛があるワケですが、人類という個別の「種」としても、人間の老化があり、「死」があったからこその繁栄があったという側面があり、2500年前はわずかに15年だった寿命が80年を超えるまでに適応してきたのは、多くの人が「死」によって、地球上のリソースを次世代に譲ってきたからだという側面は色濃くあるようです。

 

 やがて人類も「絶滅」する時期が来るのは節理として避けがたいことですが、ひょっとしたら昨今取りざたされている少子化というのはその兆候かも知れないというコワい指摘もありつつ、それまでの説明を見ているとナットクさせられてしまいます。

 

 最後にAIと人間の関係について語られているのが結構衝撃的で、いずれ「死」を迎える人間と「死」がないと思われるAIは決して相容れることがないという指摘は結構考えさせられるものがあります。

 

 ここで紹介できていない興味深い論点が山のように盛り込まれており、大袈裟ですが、全人類に一読して欲しいとすら思うほど価値があるような気がします。