ファーストペンギン/坪内知佳

 

 

 以前、2017年に出版された『荒くれ漁師をたばねる力』を紹介しましたが、2022年に女優の奈緒さん主演で『ファーストペンギン』としてその半生がドラマ化されることを受けてか、改めてその原作として、「船団丸」事業の立ち上げから現況までを辿られた著作を再出版されたようです。

 

 ということで、『荒くれ漁師をたばねる力』と被る部分は多いのですが、より詳細に後日談も含めて紹介されているのですが、こちらでは前作で事業への悪影響を懸念されてか、漁協からの嫌がらせに関する記載を控えられていましたが、こちらではかなりセキララに紹介されています。

 

 漁協では、多くの漁師が苦手とするであろう、流通に関する部分を担っているのはいいのですが、それによって漁師の収入源を縛っているという側面も大きいようで、さらには装備購入の融資なども交えて、漁師の生活を雁字搦めにしてしまって、自由な取り組みを許さない仕組みになっているようです。

 

 それだけではなく、やはり狭い世界で相互監視がキツく、同町圧力バリバリの狭い世間の中で、ある意味思考停止のまま、どんどん漁業自体がジリ貧になっていっているという側面もあり、坪内さんが漁師のリーダーである長岡さんと成功させた、直売などの取組は、漁業の将来性を展開する上で重要な意義があると思えます。

 

 軌道に乗せるまでにはかなりの苦難と葛藤があったようですが、それでもこの本の出版時点で全国12団体に坪内さんと同様の取り組みをされていて、相互の連携も始まっているということです。

 

 閉鎖的な漁業の世界の打開だけではなく、決まった種類の魚以外は捨てられてしまう漁協のやり方を超えて、直販でロスを低下させるというのはSDGsにもつながる考え方であり、全国の漁協の人たちは座して死を待つよりも固陋な因習を超えて、こういった取り組みを取り入れてもらって、色んな魚をより多くの人に届けてもらうことを期待してやみません。