イギリス型<豊かさ>の真実/林信吾

 

 

 以前紹介した対談本『ニッポン不公正社会』が印象深く、その後斎藤貴男さんの本を何冊か紹介しましたが、林信吾さんの著書にも興味深いモノが数多くあるので、紹介していきたいと思います。

 

 この本は長らく英国に在住していた時のご経験からの著作だということで、2008年出版の著作ということですが、どこか昨今顕著になった日本の「格差」をあぶりだすような内容になっています。

 

 英国では消費税率がこの本の出版時点で17.5%(現在は20%)とかなりの高率ではあるのですが、NHSと呼ばれる移民や留学生、在勤者までも含めた医療費無償の制度を始めとする、いわゆるセーフティネットに関する制度が充実していて、北欧諸国まではいかないのですが、「高負担、高福祉」に分類される国だとされています。

 

 それに対して、堤未果さんが『ルポ貧困大国アメリカ』など一連の著作で医療保険制度の不備で、ちょっと大きな病気にかかると破産の危機に瀕しかねないアメリカのような「低負担、低福祉」の国もあるワケですが、国民皆保険制度があるので、アメリカほどではないにせよ日本もどちらかというと「低負担、低福祉」に分類されるということで、一旦コロナ禍のような危機的な状況が発生すると、シングルマザー家庭のように家計が破綻するところが多発するということになりかねないワケです。

 

 英国は第二次世界大戦直後の労働党政権で制定されたNHSが、何もかも切り捨ててしまったかのように思えるサッチャー政権においても、曲がりながら維持されてきたという伝統があり、先進国群の中では比較的出生率も高めで推移しているというのは、こういうギリギリのところを守るセーフティネットが維持され続けているからなんでしょうけど、日本のセーフティネットの貧困さが極端な少子化につながっているところをわかっていないのか、わかってて目を向けないのか…いずれにせよ、「異次元の少子化対策」というのが、お題目に過ぎないのはそういうところにも表れていることに気づかされました。