カラー版 名画を見る眼I/高階秀爾

 

 

 絵画の鑑賞って、パッと見てなんとなくいいなぁ、と思うことはできても、その絵が描かれていた背景や、そこに描かれているモノの意味みたいなモノがわかれば、もっと愉しめるんだろうな、と思うのですが、そういう一段高い愉しみ方のヒントを与えてくれる本です。

 

 この本、元は1969年に出版されたモノだということですが、それが2023年になってカラー版として再販されたということで、あまり内容については改訂されていないようで、普遍的な価値があるモノだと言えそうです。

 

 この本、選ばれている絵画が割とマニアックで、レオナルド・ダ・ヴィンチとかレンブラントとかマネとか、かなり著名な画家の絵が選ばれているモノの、ダ・ヴィンチは『モナ・リザ』ではなく『聖アンナと聖母子』、レンブラントは『夜警』ではなく『フローラ』と、ちょっとナナメからの選択がシブいところです。

 

 かつ、かなり細かいところまで絵画の描写について触れられているのが印象的で、冒頭で紹介されている『アルノルフィーニ夫妻の肖像』では、真ん中にある丸い鏡(鏡と言われないとわからない…)が、夫妻の後ろ姿と来訪者を迎えている姿が描かれているところを指摘されていて、よくぞそこまで描いたもんだ!?ということと、よくぞそれに気づいたもんだ…と感心するばかりで、多少鍛えてもなかなかその境地にはたどり着けないだろうなぁ、と絶望的な想いすらします…

 

 また、ラファエルロの『小椅子の聖母』ではイエスを抱く聖母マリアの姿勢が不自然なことについて指摘されており、漫然と見ていてはそんなところには全く目がいかないように思えます。

 

 確かにそこまで見れたらいいだろうな、とは思いますが、どちらかと言えば、この本で紹介されているのは、表現者としてこういう観点で絵画を描くということを示唆することが目的とすら思えるほど高度なモノで、画家を志す人たちってこういう勉強をするのかな、という風に感じた次第でした。