はじめての人類学/奥野克己

 

 

 人類学というと名前は、大学のパンキョーの科目で聞いたことはあっても、なかなかこういうモノだということを実感を持って知っている人は多くないのではないかと思いますが、そういう人類学の概要と沿革を紹介された本です。

 

 人類学というと、民俗学と近い概念だと思っていましたが、フランスでは人類学は民俗学と同意だとされているなど、人類学が認識されるようになった当初は語義の内容が国によって異なるといったことがあったようですが、「人類」を扱う学問として、生物学的な要素と社会学的な要素を統合した学問だと言えるようです。

 

 「人類」を扱う学問だということで、社会学同様、人類にまつわることは研究対象だということで、文化人類学だったり砲人類学だったり、いろんなジャンルを組み合わせた概念があるようですが、この本を読んでいる限りでは社会学ほどとっ散らかった印象は少なく、ある意味、あえて対象を限定してきた印象があります。

 

 「人類学」というジャンルが確立したのは19世紀だということですが、当初は文献ありきのモノだった人類学が、大きな進展を遂げたのが19世紀初頭にフィールドワークの概念を持ち込んだマリノフスキで、少数民族と生活を共にしてつぶさにその生活の在り方を検証したのが現在の人類学の基本を形成したようです。

 

 さらには、自らの価値観に合致しないモノを「野蛮」だとか「未開」だとか言ってさげすむことが多かった西欧に対して、あくまでも生活様式や価値観の違いだとしたレヴィ=ストロース構造主義的な研究も、偏見を廃した人類学の発展に大きな役割を果たしたことを指摘されているのが印象的です。

 

 また、国の中に多くの民族の生活様式が共存しているアメリカにおいて、それぞれの民族の生活様式を理解することで、共存をスムーズにするという意図もあったようで、人類学の発展にも大きく寄与したようです。

 

 そういうアメリカの研究の中で、対日戦争を見据えた日本人の気質の研究としての『菊と刀』が西欧の「罪の文化」に対する日本の「恥の文化」という概念を紹介して、対日戦争に寄与したことを紹介されており、人類学の果たす役割の大きさを指摘されています。

 

 グローバル化が進む中、より相互理解の必要性・重要性が増しており、無用な軋轢を避けるためにも、人類学の発展が期待されるところです。