人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく/池上彰、佐藤優

 

 

 ”わかり易過ぎるニュース解説”の池上さんが”知の怪人”佐藤さんと、2020年初頭の中学校の教科書の読み比べをされた本です。

 

 お二方はこれまでも教育に関する対談本を出版されていますし、元々池上さんはNHKの『週刊こどもニュース』のキャスターを務めるにあたって、中学生がどのくらいに知識レベルにあるかを中学校の教科書で確認されていたということですし、佐藤さんも教科書についての著書を何冊か出版されていて、かなりお二方の関心は高そうです。

 

 お二方は、中学校の教科書に書かれていることをすべて把握していたとしたら、相当な”物知り”にあたるとおっしゃっておられ、オトナが世の中の現況の概要を知るための資料として、中学校の教科書は相当適性が高いとおっしゃいます。

 

 佐藤さんはワタクシよりちょい上の世代にあたるのですが、佐藤さん自身が教育を受けた時期とかなり様相が異なっていて、かつてのように、ただただ知識を教え込むという感じではなく、如何にして社会に出てから自分で判断するための基盤となる様な、ある意味”立体的”な記述となっているようです。

 

 さらには、歴史教科書における沖縄やアイヌの記載、韓国併合の経緯、公民の教科書にはLGBTや在日朝鮮・韓国人への言及があるなど、ダイバーシティを意識した内容となっているということで、グローバル化が進展する中で生き抜いていけるように、との配慮もあるようです。

 

 「社会で生きる力をつける」という指導要領の方向性の変化の表れについて、お二方はかなり好意的に捉えられているようで、最早知識偏重教育が破たんした中、新たな人材の育成に一定の方向性は示されたようです。

ひとりでいることみんなとすること/松浦弥太郎

 

ひとりでいること みんなとすること

ひとりでいること みんなとすること

 

 

 3日連続で松浦さんの本ですが、今日の本は一昨日紹介した『40歳のためのこれから術』と『愛さなくてはいけないふたつのこと あなたに贈る人生のくすり箱 (PHP文庫)』を前者からは「共感」、後者からは「孤独」に関するトピックを取り出して再編成し、サブタイトルにあるように『孤独と共感のバランス練習帖』ということになっています。

 

 だったらこれだけ読んだらよかった…とちょっと思ったのですが、かなり『40歳のためのこれから術』からは端折られていて、結構カンドーした部分が割愛されていたりもしたので、まあ、よかったかな、という感じです。

 

 『40歳のためのこれから術』において、40歳以降は何らかの形で世間に「与える」ことをやっていきたいということをおっしゃられていましたが、それは必ずしも世間にいい顔をしたいからとかと言うのではなく、自分というモノが求められるところで最大限貢献するという意味で、自分を曲げてまでそれをやっても仕方がないといったようなことをおっしゃいます。

 

 冒頭で松浦さんが一人で仕事を始めた頃にお父様に言われた「味方が欲しかったら、敵を作れ」という一見矛盾したような言葉を紹介されていますが、それっていうのは八方美人的に誰にでもいい顔をしようとしていたら、いつか化けの皮が剥がれて、誰もいなくなってしまいかねない…それなら、自分を支持してくれる人のために、自分の立ち位置を鮮明にしておくことが重要なんじゃないか、とおっしゃられているように感じます。

 

 自分の旗幟を鮮明にするということは、必ずそれに反対する人がある程度はいるはずだということで、それはそれでツラい目に合うこともあるでしょうけど、その分、リアルな自分を支持してくれる人もいるかもしれないということで、より密接なつながりを持つことができ、その人に対して実のある貢献をできるんじゃないかということです。

 

 松浦さんは著書の中で再三、「目の前のことを一生懸命こなす」と言ったことをおっしゃいますが、それ自体もきっと自分なりの色を出すことになるんでしょうし、そういうモノを愛してくれる人にこそ、喜んでもらえると自分も嬉しくなって、人生が充実していくのかも知れません。

松浦弥太郎のハロー、ボンジュール、ニーハオ

 

 

 昨日に引き続き、最近著者ループモードになりつつある松浦さんの著書ですが、こちらは松浦さんがインスパイアされているというアメリカ人、フランス人、中国人(特に客家)の人生に向かう姿勢を紹介されています。

 

 松浦さんは、アメリカ人、フランス人、中国人の考え方をより深く知ろうということで、英語、フランス語、中国語のレッスンを受けているということなのですが、語学そのものよりもそれぞれの言語を使う人々の考え方のキモみたいなものを知ろうという意図で学習をされているということです。

 

 そんな中で英語の学習においては、アメリカ人のチャレンジする人を応援する姿勢を学びたいとおっしゃられているのですが、それは松浦さん自身がアメリカにいるときに、親友のお父様が親身に支援してくれたことに端を発しているということです。

 

 日本では失敗を避けることに腐心しがちですが、アメリカではチャレンジそのものを称賛する空気があって、失敗もある意味チャレンジした証だということで、一つの勲章だとみなされることが多く、閉塞的な日本の社会にとっては見習うべきことが大きい気がします。

 

 仏蘭西語の学習においては、人生を楽しむ姿勢であったり、物事を論理的に捉えたり、文化的教養を高めたりという姿勢を学ばれているようですが、このいずれも日本では蔑ろにされがちなのですが、グローバルな環境に出たとたんに、これらを身につけていないとハナシにならないという部分もあるようで、日本人にとっても積極的に身に付けて行くべきことになっていくかも知れません。

 

 さらに中国語においては、主に客家と呼ばれる、中国から出て行って海外で活躍されている人たちの「真心」を大切にする姿勢を学ばれているということです。

 

 残念ながら客家の人たちから見て、現在の中国本土の人は著しく「真心」にかけているように見えるそうなのですが、積極的に海外に出て行って出先では寄る辺もない立場に置かれていると、自分を信用してもらう以外、ビジネスを進めていく術がないということで、あらゆる手立てを用いて信頼してもらう必要があるワケですが、やはり何よりも「真心」が重要なようです。

 

 ワタクシ自身も長らく語学をやってきましたが、こういう姿勢で語学を学ぶという考え方が無かったので、今後はちょっと文化的なことも取り入れていきたいと、ハゲシくインスパイアされた次第です。

40歳のためのこれから術/松浦弥太郎

 

40歳のためのこれから術 幸せな人生をていねいに歩むために

40歳のためのこれから術 幸せな人生をていねいに歩むために

  • 作者:松浦 弥太郎
  • 発売日: 2012/11/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 先日50歳になられた時に、50歳代としてのあり方を語られた『おとなのきほん』を紹介しましたが、この本は松浦さんが40歳代に突入された頃に書かれた、その後の人生のあり方を語られたモノになっています。

 

 松浦さんはご自身の人生の中で70歳でピークを迎えたいとおっしゃっておられて、40歳はそこに向けた再スタートということで「セカンドバースデイ」と位置付けられています。

 

 30歳代までは、多くの人がある意味わき目も振らず突っ走って来ることが多いと思うのですが、40歳代になって多少それまでの経験について振り返ることで、今後の人生に向けて戦略を練り直す時期にあたるようです。

 

 そんな中で40歳代以降の人生においては、それまでの経験を踏まえて「与える人生」を送っていこうとされています。

 

 松浦さんは『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』の中で、その人が稼げるお金というのが、「感動×人の数」という式で表せるとおっしゃっていましたが、お金を稼ぐという打算的な部分も多少はあるのかも知れませんが、純粋に周囲の人に喜んでもらうことがその後の人生を充実させることにつながるということで、その後の人生の様々な局面を周囲の人に「与える」ことに繋げるようにすることを勧められています。

 

 そのためにもまだまだ自分の可能性を広げていくことも重要だとおっしゃっておられますし、自分の健康の維持などにも留意しておくべきだということです。

 

 自分の40歳代を振り返ると、そこまで達観した考えを持っていたワケではないのですが、単身赴任を通して、多少は自分の身の回りのことをちゃんとこなせるようになって、リタイア後にヨメに必要以上の負担をかけることだけは避けられそうです。

 

 10年遅れてはしまいましたが、松浦さんのように周囲へ少しでも「与える」ことができるように考えていければなぁ、という感じです。 

 

 

100年生きる私たちのマネープラン/横山光昭

 

お金と人生の計画帳 100年生きる私たちのマネープラン
 

 

 多重債務者など、かなりヘビーな経済状況にある方々の家計の立て直しを支援されて来られたことで知られる”家計再生コンサルタント”の横山さんによる老後のマネープランについての本です。

 

 ”家計再生コンサルタント”が老後のマネープランを語るなんて言うと、「失礼な!」と立腹される向きもあるかも知れませんが、実はある程度高額の退職金や年金が見込まれる人であっても、家計を破綻させてしまうケースというのは少なからず見受けられるようで、しかもそういう人の方が却って破綻の確率が上がってしまう傾向もみられるということで、ここは謙虚に耳を傾けた方がいいのかも知れません。

 

 全体におっしゃられていることを見ると、収入の見込みと支出の見込みを算出して、プラスマイナスの見える化を行った上で、マイナスになるポイントを見極めて、どのように対策をするかという、王道というか、それしか手が無いというか、そういうオーソドックスなアプローチを取られています。

 

 ただ、家計再生を専門とされているだけあって、かなりディフェンシブなアプローチを基本とされており、投資をするにしても投信などにとどめておいて、FXや不動産など、ある程度リスクの高い投資には否定的な見方をされています。

 

 やはり横山さんの本で見るべきは、支出を如何にしてスリムにするかというところで、リタイア後に破綻してしまう人の多くは、現役の頃の消費行動をそのままリタイア後も続けてしまうところにあるようで、収入減に合わせた支出減を、生活の充実度を落とさずに実現して行くかというところを指摘されています。

 

 こういうマネープランというのは、予め現役時代にプランニングをしておくことが重要なようで、子供の教育費など現役時代の大きな出費についても、リタイア後の収支状況を見据えた上で判断すべきだというところは、50歳代に突入して、今からムスメたちの大学進学を控えるワタクシにとっては喫緊の課題となってしまいそうです。

 

 とにかく早めにこういう大まかな見通しを立てることが重要だということで、ちゃんと家庭内でお話をしておきましょうね!

読むJ-POP/田家秀樹

 

 

 以前このブログで取り上げた甲斐バンドのクロニクル『ポップコーンをほおばって』を執筆された田家さんがこんな本を書かれているのを知って手に取ってみました。

 

 冒頭で、日本におけるポピュラー音楽の通史的なモノが無いことを指摘されていて、そういうところを意図されているとのことですが、サブタイトルに「私的全史」とあるように、田家さん自身が取材されて来られたアーティスティックな色彩の強いアーティスト中心の構成で多少偏りはありますが、日本のポピュラー音楽の変遷を俯瞰的に理解できる内容ではあります。

 

 この本では、第二次世界大戦終戦後から話が始まりますが、大戦中は敵性音楽として禁じられていたジャズの音楽家たちが隠れキリシタンのごとく、戦争中も密かに活動をされていたのが、戦後表立って活動を再開されたのが日本のポピュラー音楽の黎明期とされています。

 

 そんな中でジャズピアニストであった中村八大さんや、作曲家の服部良一と言った人々がヒット曲を飛ばし始めます。

 

 その後、ロックがアメリカから入ってきたのに呼応してグループサウンズが流行したり、フォークが入って来て、吉田拓郎などメッセージ性の高いフォークソングが流行したりします。

 

 そういう新しい音楽が次第に人気を集めてコマーシャリズムに染まっていくのにつれて、そういう風潮を嫌う層が新しい音楽を取り入れて、さらにそれがポピュラリティを得てコマーシャルな方向に行くと、さらに別のジャンルが開拓されて…といったカタチでディスコサウンドやファンクなどありとあらゆるジャンルが取り入れられて、日本のポピュラー音楽が発展してきた歴史を追われます。

 

 そういう流れの中で、新たな音楽を開拓するんだという、どこか肩に力が入った姿勢で音楽に取組んで、発展を促していたのが、次第に自分たちが自然体で自分の言葉で音楽を奏でる姿勢が出てきたのが、1990年代中盤のMr.Childrenだったり、スピッツだったりということです。

 

 宇多田ヒカルなど、200万枚以上のセールスという、ある意味黄金時代でこの本は終わっていて、その後音楽メディアの形態の変遷もあり、売り上げは右肩下がりとなってしまうのですが、コロナ禍の中、音楽に救われた人も少なからずおられると思うので、何らか新たなムーブメントで音楽業界が改めて活性化されることを祈ってやみません。

人生の教科書[ルール]/藤原和博、宮台真司

 

人生の教科書[ルール]

人生の教科書[ルール]

 

 

 藤原さんと宮台さんの共著があると知って手に取ってみました。

 

 お二方の対談だと面白そうだなぁ、と勝手にハードルを上げていたのですが、宮台さんは1章を執筆されているだけで、藤原さんとの絡みはなく、藤原さんも2章のみで、それ以外はその他の方が書かれたということで、ちょっと肩透かし感が否めません。

 

 この本は、『人生の教科書[よのなか]』の続編なんだそうで、そちらが経済学、政治学社会学を取り扱われているのに対して、こちらは法律学を中心に心理学、社会学をカバーされているということです。

 

 この本が出版されたのが1999年ということで20年以上が経過しているワケですが、冒頭でトランスジェンダーについて取り上げられています。

 

 現在においてもLGBTに対する偏見はまだまだ払しょくされているとは言えない状況だと思うのですが、この本が出版された頃に性同一性障害に直面している人たちを取り上げられていて、その生きにくさを紹介されています。

 

 最近でこそ社会的にもダイバーシティ尊重の重要性が取り沙汰されるようになってきましたが、当時は極端な言い方をすれば、異常な性癖というような扱いをされていたということもあって、最近でこそLGBTのカミングアウトということも次第に行われつつありますが、この頃は性転換手術すら優生保護法違反なんじゃないかという議論があったということで、相当生きにくかったんだろうなぁ、ということが伺えます。

 

 また、最終章で宮台さんが、その当時ある高校生が『ニュース23』に出演した男子高校生が「なぜ殺人がいけないのか分からない。自分は法律の罰が恐いから殺さないだけだ」と発言したことが世間にショックを与えたことを紹介されていて、そのことについて論評されています。

 

 それ以外の章は、法律の専門家が青少年を取り巻く犯罪についての法律的な観点を紹介されていて、正直青少年が読んであまりオモシロいモノとは思えません。

 

 まあ、よのなかを生き抜く上で、こういうことをアタマに置いておくことが必要だということは理解できますが、あまり青少年の興味を引くモノじゃないのではないかという気はします。