読書は格闘技/瀧本哲史

 

 

 『僕は君たちに武器を配りたい』など若手のビジネスパーソンに生き抜いて行くための「武器」を持つための方法論について語られた多くの著書を持ち、熱狂的に支持されながらも2019年8月に47歳の若さで亡くなられた瀧本哲史さんによる読書論です。

 

 以前紹介した『武器としての決断思考』でもディベートのネタ収集の手段として読書の方法論について触れられていたのですが瀧本さんは読書をする際の基本的なスタンスとして「書籍を読むとは、単に受動的に読むのではなく、著者の語っていることに対して、「本当にそうなのか」と疑い、反証する中で、自分の考えを作っていくという知的プロセスでもあるのだ。」とおっしゃっておられ、そういう意味で本を読むことは著者を対戦相手とした「格闘技」と位置付けておられるからこそ、このタイトルにされたのだと思われます。

 

 各章は、「心をつかむ」「組織論」「グローバリゼーション」といったテーマごとに2冊の本を取り上げて、それぞれを対比しながら、どういうプロセスで自分の考えを作っていくのかということを例示されているのですが、冒頭のイントロダクションの章ではご自身の『武器としての決断思考』とショーペンハウエルの『読書について』を取り上げられていて、その中でショーペンハウエルが「読書は、他人にものを考えてもらうことである。/一日を多読に費やす勤勉な人間は、しだいに自分でものを考える力を失っていく」と書かれているのを引用して、ただ本を読むだけだとバカになっていってしまう、くらいのことをおっしゃっています。

 

 一番印象的だったのが「時間管理術」について語られて、2001年に出版されひと頃は「世界一売れたビジネス書」として取りざたされたTOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)についてストーリー仕立てで語られた『ザ・ゴール』を取り上げられているのですが、その中で時間管理術には関係ないのですが、グローバルなビジネスパーソンはこういう専門学術的なテーマをビジネスに応用するような著作を求めているのに対し、日本では『もしドラ』がベストセラーとなるのを見ると、いいところ日本のビジネスパーソンの発想レベルは高校生レベルであることを証明してしまっているという痛快な指摘をされています。

 

 また、あだち充の名作マンガ『タッチ』を、ドイツ文学に源流を持つ「主人公が様々な体験を通じて、内面的に成長し人格を完成させていく、大人になって行く過程を描く小説」と定義される「教養小説」として読んでみる試みについて語られているところもかなり興味深い所です。

 

 まあ、まったくの無批判で本を読んでいる人も、ある程度本を読む習慣がある人では少ないかも知れないのですが、何らかのギモンを持ちながら本を読むということは、ワタクシとしても忘れないようにしたいところです。