黎明日本左翼史/池上彰、佐藤優

 

 

 『真説』『激動』『漂流』と戦後の日本左翼史を語ってきたお二方ですが、『漂流』でほぼ現代までやってきたので完結したのかと思いきや、戦前に戻って『黎明』ということで、これで打ち止めなんだそうです。

 

 戦前の「左翼」というと非合法化されたイメージが強くて、地下運動みたいなモノかと思いきや、完全に非合法となったのは1925年制定の治安維持法以降だということで、それ以前は弾圧を受けながらも、脈々と活動されていたようです。

 

 日本の「左翼」の萌芽として、お二方は1854年のペリー来航による開国を挙げられており、その後の尊王攘夷運動がその原点だとされているのが意外ですが、その当時は尊王という右翼的な思想と、攘夷という左翼的な思想がないまぜになっていたワケですが、その後、大政奉還を経て社会が高度化していく中で、社会における不満の受け皿が、右翼的な思想、左翼的な思想、新興宗教の3つに分かれていったということです。

 

 特に、富国強兵で産業革命の流れを受けて、労働者階級が生まれてきた中で、次第に社会主義共産主義的な思想も受け入れていって、日露戦争直前には、即日解散命令を受けたモノの社会主義政党が誕生したということです。

 

 さらに1917年のロシア革命を受けて、左翼的な思想が盛り上がるワケですが、大逆事件など度重なる弾圧を受けて、次第に軍国化していく中で、逆に左翼陣営も一部に過激な動きがみられるようになって非合法化されたということのようです。

 

 一応、この本でシリーズが狩猟するワケですが、巻末で総括みたいなことをされているのですが、割と気に入らないことを書かれるとすぐにクレームの入る日本共産党なんだそうですが、このシリーズについては日本共産党が否定する暴力革命的な要素に言及されているにも関わらず、何の音沙汰もなかったことと、2022年に結党100周年を迎えたにもかかわらず百年史の出版の音沙汰がなかった(結局、翌年7月に出版)ことを奇異に感じていたようですが、かなり存在感が薄くなったことや、カリスマ的な論客がいなくなったことで、衰亡へと向かう前兆を感じておられるのかもしれません…