一汁一菜でよいと至るまで/土井善晴

 

 

 今年3月末に32年間講師を務められたテレビ朝日の『おかずのクッキング』が終了した料理研究家土井善晴さんが、昨今提唱されている「一汁一菜」を重視するような境地に至るまでの軌跡を紹介した自伝的な著書です。

 

 お父様がテレビの料理番組の講師の草分けとも言える料理研究家土井勝さんということで、料理界のサラブレッドともいえる土井先生だけに、子どもの頃から生活の周囲に料理が溢れていたということで、幼少の頃から強い興味を示されていたということです。

 

 現在では和食のイメージの強い土井先生ですが、若い頃はフランス料理への興味が強かったということで、フランスに修行に行かれていて、しかもポール・ボキューズなどの名シェフを輩出したことで知られる『ピラミッド』の流れをくむ名店に行かれたということで、フランス料理についてもかなり深い造詣をお持ちだということです。

 

 ただ、やはり育ちが育ちだけに帰国後日本料理に目覚めて、本格的に日本料理の修行に取組まれるのですが、こちらも修行先が日本料理の最高峰とも言われる「吉兆」唯一ののれん分け店「味吉兆」だということで、さすがはサラブレッド!というところです。

 

 その後、お父さまの料理学校に戻ることになるのですが、当初は和食の頂とも言える洗練された料理を手掛けられていただけあって、家庭料理に指導に葛藤があったということですが、長野県小布施町で食べた生ウドに感銘を受け、洗練された技法だけでなく、素材を活かして日常の糧になるような料理への興味が俄然高まり、また健康を維持する上での自炊への取り組みを促すということもあって、まずはご飯と味噌汁の一汁一菜から始めませんか、という啓蒙に至ったということのようです。

 

 言ってみれば原点回帰と言ったところなのかも知れませんが、これまでの経歴があってこその重みがあるだろうなぁ、という気にさせられます。